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ヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会

17 1月 2019

ゲネプロ直前の王室礼拝堂祭壇付近

このところは少し青空が見えるヴェルサイユです。いつも曇ってばかりだと少し晴れ間が見えただけでとても嬉しいものですね。
先週から以前リハーサルしていたラモーの「優雅なインド」の本番が始まりました。1回目は王室礼拝堂、2回目はシリー・マザランにあるとある小さな教会、今週末はオルセー県立音楽院の音楽堂です。1回目は割と良かったのですが2回目はずれたり色々な事故がありました…有り難い事に第1ヴァイオリンのトップをやっているので何かあった時は対処せねばならないのですが、一人の力ではどうにもならない事もあります。
先週の土曜日はパリ国立高等音楽院の教育学の授業に縁あって参加してきました。国立の学生が先生の前で生徒役にレッスンをして、それに後から先生がコメントするという授業で、私は生徒役。同じ年代の、レベルが同じ人にレッスンを受けるのはなかなか新鮮でした。

さて、今回は前述の「優雅なインド」で初めて参加した、ヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会Les jeudis musicauxについて書きたいと思います。
今期は昨年の11月から今年の6月までの24回、木曜演奏会が予定されています。ヴェルサイユバロック音楽研究センターが主催している演奏会で、センターの歌手だけでなくパリ国立高等音楽院のオルガン学生や周辺の地方・県立音楽院の学生も演奏に参加しています。場所はヴェルサイユ宮殿の王室礼拝堂で、演奏謝礼は出ませんがあの空間で弾けるということはとても光栄ですし良い勉強になります。
お客の方も入場料は無料で、予約は不要ですが先日もほとんど満席でしたので、行く場合は少し早めに行った方が良さそうです。客層は年齢層が高めで、偶然居合わせた観光客もいるでしょうがやはりヴェルサイユ市民が多いのではないでしょうか。こうして学生が地域貢献できるところが、ヴェルサイユの良いところです。
さて、当日はセンターで1時間半ほどリハーサルをした後、みんなで徒歩で移動してゲネプロとなりました。私は寄り道して着替えてきました笑。宮殿が目の前に迫ってくるにつれ、とても引き締まる気持ちになりました。ルイ14世の時代から、一体何人の音楽家が同じ道のりを歩んだ事でしょう。自慢の作品を携えて来た者、誰にも負けない演奏技術を披露しに来た者、そして父親に連れられてきた8歳の神童モーツァルト…。全ての者がきっと、こんな気持ちになったに違いありません。いや、彼らの時代は国王がいたわけですから私とは比べ物にならないか。そんなことを考えながら、門に向かって歩いて行きました。
ゲネプロは16時からでしたので、宮殿内にはまだ観光客がいました。演奏会がある時以外は礼拝堂の入り口に柵が置かれているのですが、楽器を持った私を見ると横にいたスタッフが柵をずらしてくれました。うーん、関係者として入れるのって嬉しいですね!
そのまま左手奥まで進むと下に降りる階段があって楽屋があります。礼拝堂は暖房が効いていますが楽屋との間の階段はとても寒かったです。楽屋は小さい部屋が一つと台所が付いた部屋が一つ、男女一つずつの少し広い部屋があるだけでした。昔はここはどう使われていたのでしょうか。壁には修復工事の図面が貼ってあり、工事の会議もここでやっているようです。
そうそう、書いていませんでしたが現在王室礼拝堂は修復工事中で、外壁はすっかり足場を隠す大きな壁で覆われています。その壁にはよくあるように写真が使われていてただの壁ではないのですが、それにはなぜか内装の写真が使われています…。こういうのは外装の写真を使ってなるべく見た目にも遜色ないようにするのではないのでしょうか。均整の取れた宮殿で一際目立つ礼拝堂なだけに、この外装は大きく景観を損なっている気がしてなりません。早く修復が終わってほしいものです。内部はあまり工事しているのが気にならないようになっていますが、上部にあるいくつかの窓は木版で塞がれています。
リハーサルを始めてしばらくの間、工事の音が続いていました。なんだかとてもシュールな現場で、師匠で指揮のパトリックも嫌な顔をしていましたが作業終了時間までどうにもならなかったようです。
祭壇の前の床は色の付いた大理石により美しく装飾されていて、さながら南仏で見たローマ劇場の舞台のようです。2階部分にも巨大な円柱が使われていますし、他の大聖堂や教会にはない華麗さがこの礼拝堂にはあります。
音を出してみると確かに響くのですが、先日行った演奏会で感じたようにやはり音が散っていく感じがします。そのせいなのかどうなのか、巨大な空間の中で自分がとても小さな存在のように感じられました。今日はただ一ヴァイオリン奏者のはずなのに、場所に威圧されるというか、雰囲気に飲まれるというか…ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂ということで意識しすぎなのかもしれません。来月ルクレールの協奏曲を弾く前に一度弾けて良かったです。
本番はパトリックの短い挨拶があった後、まずはオルガン演奏でスタート。優雅なインドの序曲をオルガンで聴くという滅多にない機会。でもやっぱりオーケストラでしょ!という事でもう一度序曲から、オーケストラ演奏がスタート。
進行していくと、途中でパトリックがタンブーランを忘れたまま進行してしまうというハプニングが発生。彼はお辞儀をして奥に引き上げて行ってしまったので、空気を読んで次の曲はどうするのか聞きに行くと、「心配しないで!」という事でした。彼も多分途中で気がついたのでしょう。これは最後にアンコールとして加えることで見事に解決、ついでに有名な「未開人のエール」ももう一度演奏して観客は大盛り上がりでした。
演奏はまずまずの出来で、無事にヴェルサイユ宮殿デビューを終えることができました。次は鏡の回廊デビューを狙いたい!
ちなみにこの演奏会はぴったり1時間と決められているらしく、1曲アンコールしたものの進行はとてもスムーズでした。観覧時間はもう終わっているので、ヴェルサイユ宮殿自体を閉めるためだと思います。
帰りはいつもの通り、徒歩数分で自宅に着きます。本当に良いところに住んだなと、しみじみ思いました。

今回はヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会についてお伝えしました。次回は私の通う、ヴェルサイユ地方音楽院について書いてみたいと思います。

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