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「夏の歓楽」での24のヴィオロンと師匠とのデュオ

2 9月 2020

レコレ庭園で行った師匠とのデュオ

最近は旅行記ばかりでしたが、今回は久しぶりの音楽活動報告です。
現在ヴェルサイユでは「夏の歓楽Plaisirs d’été」と銘打った13日間のイベント週間が催されています。コロナ禍で中止になったモリエール月間の代替、新型コロナウィルスによる外出制限からしばらく経ち少し余暇が楽しめるようになったことを祝う目的で、市内の様々な場所を使い演奏会、演劇などの公演が行われています。感染拡大防止のため予約制にしたり、屋外で行ったりするなどいろいろと腐心しているようです。
その中で私も2つのプロジェクト、3つの演奏会に参加しました。
1つ目のプロジェクトは昨年もご紹介した、パトリックの弾き振りによる24のヴィオロンのオーケストラで、弦楽器はヴェルサイユ・バロック音楽研究センターが保有する通常のヴァイオリンよりも一回り小さいドゥシュ・ド・ヴィオロン、3つの異なる大きさのヴィオラ、チェロよりも大きく全音低い調弦によるバス・ド・ヴィオロンを使用します。私は今回も主旋律を担当するドゥシュ・ド・ヴィオロンを演奏することになったので、倉庫から出して各自使う楽器を決める際に昨年も使用したおそらく最も状態の良い「ポリドール」をすかさず手に取りました。あまり使われていないのか結構状態の悪いものも中にはあるので…。
今回は感染拡大防止のため出演する演奏者も制限され、本来5人いるドゥシュ・ド・ヴィオロンは練習こそ一緒にしましたが、本番ではA、Bグループに分けられ私以外は2回ある公演のどちらかのみの出演となってしまいました。ヴィオラやオーボエ、ファゴットも同じような状況で、せっかく人数が多いのに減らされてしまうのは残念でした。
演奏曲目は「夏の歓楽」のイベントに合わせた内容で、リュリの《魔法の島の歓楽》、《愛の神の勝利》、4月に舞台上演が行われるはずだったマレの《アリアヌとバッキュス》の器楽曲抜粋、当アンサンブルも演奏したド・ラランドの《国王の晩餐のための音楽》の第三カプリース(国王が度々所望した)を演奏しました。リュリもド・ラランドももちろん素晴らしいのですが、マレの《アリアヌとバッキュス》の序曲やシャコンヌがとても味わい深い曲で、4月の舞台上演が叶わなかったのが本当に悔やまれました。
今回のメンバーはヴェルサイユや周辺の音楽院の学生を中心に、バカンス中であまり人数が集まらなかったのかフランス以外で学んでいるという学生もいました。全体的なレヴェルは、まあ残念ながらアマチュアの域を出ないくらいです。
リハーサルはヴェルサイユ地方音楽院のオディトリウム(ホール)で行われました。練習中以外はマスク着用、入口と出口の導線分け、休憩中は室内に残ってはいけないなどいろいろ不便はありましたが、リハーサル自体は以前とほとんど遜色ない環境で行われました。パトリックの指導はいつも通り明確でしたが、曲が多い割にリハーサルが3日間しかなく、オーケストラとしての成熟度も曲の完成度も今一つといった感じで本番を迎えてしまいました。特にオーボエバンドはもう少し音程やタイミングの整理をしてほしかったです。
一回目、金曜日20時からの本番はヴェルサイユ宮殿併設の大厩舎の中庭で行われました。野外ですが四方を壁に囲まれしっかりとした音響があります。ただあまり天気が良くなくリハーサルを終え皆が舞台を下りた直後、突風が吹いて譜面台が殆ど全て倒れるという事件が発生。その後、譜面台の足と床をテープで固定したようなのですが、本番までに少し雨が降ったのでテープが剥がれ使い物にならなくなっていました(笑)。本番中は風で楽譜がめくれないように用意された洗濯バサミで固定しながら進めていきましたが、強い風が吹くと留めていない箇所がめくれます。さらに直前に雨が降ったので湿度が高く、室内と違い気温が低いことも相まって調弦があっという間に狂ってしまい開放弦が殆ど使えない中で演奏を続けなければなりませんでした。17-8世紀はこうした野外演奏も当たり前のように行われていたので、当時と同じようにその中で起こる問題に直面し対処する良い経験ができましたが演奏のクオリティーは下がりました。
観客は座席が少ないためか事前予約で一杯で、70-80人はいたと思いますが本当なら座席を増やしてもっと多くの方に楽しんで頂きたかったです。何とか最後まで雨は降らず、演奏者、観客とも濡れずに済みました。
2回目の公演は日曜日の19時から行われたのですが、残念ながらこの日は金曜日にも増して雨模様で、事前のリハーサルでは学校のオディトリウムでの演奏に切り替えるかもしれないと案内がありました。しかし直前にいくらか天気が回復したことで厩舎での野外演奏を決行。結果、リュリを演奏し終えたところで雨が降り出してしまい、そのまま止まずプログラム半ばで終了となってしまいました。学校でやれば最後まで演奏出来てクオリティーも良かったのに…。お世話になった楽器ポリドールともこれでお別れです。

2つ目のプロジェクトは師匠であるパトリック・コーエン=アケニヌとのヴァイオリンデュオで、ルクレールのソナタを3曲演奏しました。リハーサルはオーケストラのリハーサルの間をぬって行いましたが、お互いになかなかきつかったですね。私も指導監督されるだけでなくアイディアを出しながら仕上げていったのですが、それでも師匠のアイディアや音色の豊富さには改めて勉強させられました。
本番はオーケストラ公演日に挟まれた土曜日16時から、音楽院の近くにあるレコレ庭園で行われました。この日も雨模様で、直前には強い雨も降りましたが開始時間には何とか回復。途中で数滴雨粒を感じましたが雨に関しては何とか最後まで持ちました。問題だったのは風で、演奏中何度も突風が吹いて譜面台が倒れそうになったり、一度私の楽譜がめくれて演奏不能になってしまいもう一度演奏しなおさなければならない事態も発生しました。野外演奏は経験が必要ですね。
アンコールには直前に渡されたラべ・ル・フィス編曲によるラモーの有名な《未開人たちの平和のパイプの踊り》を演奏。しかも私の方が格段に難しい伴奏パート担当になり、頑張って譜読みしました。パトリックの方はほぼ原曲通りなので余裕で弾いていました(笑)。
観客は40-50人ほどが来ていたと思います。予約不要だったので大家さんや知人を気軽に誘うことができました。演奏中の写真や、ある人のスケッチがVilledeVersaillesのインスタグラムに投稿されていたようです。
終了後すぐに宮殿へ向かいパトリックと共に鏡の回廊での夜会に出演。毎週あった私の出番もついに最終回を迎えてしまいました。

次回は今週行くシャンパーニュ地方の都市、ランスをご紹介します。

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