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修了リサイタル

23 9月 2020
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サル・ラモーでの最後の演奏会になりました

先週土曜日は帰国に際して処分する品を譲渡するために、パリ周辺に住む知り合いを数人誘って交流会を開きました。私自身、引き揚げる3人の方からいろいろな品を譲っていただいていたので、大半の品が次の持ち主の手に渡って良かったです。ただテュイルリー庭園でやっていたのですが、途中から大雨になって散々な目に…。笑
日曜日はツール・ド・フランスの最終ステージで、ヴェルサイユ宮殿前もコースに含まれていたので観戦に行きました。15時半頃からスポンサー企業の車列がクラクションを頻繁に鳴らして粗品を観客に放り投げながら通過。警察や救急車の乗員まで車内から記念撮影を行ったりしていて、何だか良くも悪くもフランスだなと思いました。そのまま待つこと1時間半あまり、競技者たちが通過。殆ど群衆で走行していたので長らく待った割にはわずか1分ばかりの観戦時間でした。まあ一度見てみたかったので良い思い出です。本当は同日行われていたルマン24時間耐久レースに行きたかったのですが、次の日にリサイタルを控えて土曜日から泊まりがけはさすがに叶いませんでした…。

さて今回は修了リサイタルの模様をお伝えします。
元々6月に試験を兼ねた修了リサイタルが予定されていたのですが、感染対策のため全ての公開試験は中止となり、2019年度の卒業者は試験がないまま卒業となってしまいました。しかしこれで私が留学を終えるのはあまりに不憫に思ったのか、パトリックが9月に記念のリサイタルをやるように勧めてくれました。
ヴェルサイユの音楽活動ではリュリを始めルイ14世時代の作品を演奏する機会が非常に多く大変勉強になりましたが、私がテーマに選んだのはルイ15世時代のロココ様式。ルイ15世の王女でヴァイオリンを達者に弾いたマダム・アデライードに捧げるプログラムという体裁を取りました。
何故ロココ様式を選んだのかというと、まず日本にいる時からこの様式が好きだったのと、ヴェルサイユ宮殿の多くの部屋はルイ14世の死後様々な主人によって改装されていて、まさにロココ様式の粋を今日に伝えており、それらを見ることによって見識が飛躍的に広がったからです。またルイ14世時代はヴァイオリンはまだあくまでオーケストラや舞踏での伴奏楽器としての役割が大きく、フランスでヴァイオリンの独奏曲が発展するのは主にルイ15世時代であり、このレパートリーを押さえるのは必須と思いました。
そんな訳で、今回選んだのはマダム・アデライードの時代にヴェルサイユで活躍したアントワーヌ・ドヴェルニュ、ルイ・オベール、ジュリアン=アマーブル・マチューの3人のソナタ。ドヴェルニュはオペラで若干有名ですが、オベールとマチューはフランスでもまだまだ知名度が高くありません。しかし特にマチューは最後の王室礼拝堂楽長として王国の終焉まで活躍しており、宮廷で非常に重用された存在だったようです。
昨年来ソロを弾く時に伴奏を頼んでいるチェロとチェンバロの同僚に今回も共演を頼むことができ、リハーサル3回、レッスン2回で本番に臨みました。彼らもロココ様式の雰囲気を掴むのはなかなか難しいようで、試行錯誤しながら進めていきました。
当日は午後にリハーサルかつ最後のレッスンがあった後、直前に2、3箇所微調整をして本番へ。音楽院が公式に主催しているわけではないのであらゆるセッティングを自分でやらなければならず本番前は結構大変でした。お客様は感染対策のため門下の同僚はリハーサルに来るなどしてできるだけ人数を絞って20人弱、間隔を開けて着席しました。
パトリックのコメントが少しあった後に私もコメント。日本語同様大まかに話の内容を決めるだけで話したので、未だフランス語が不完全なのがバレました…もう仕方ないですね。
この日も日中は暑く、室内の空気もまだ少し温かいままだったので演奏中は汗だくになりました。
2曲ソロソナタを弾いた後、最後のマチューはパトリックとのデュオ。1764年出版の作品ですがもう片足をクラシックに踏み入れたような曲で締め括りました。
通常のアンサンブルの演奏会なら終わった後にその場でパーティーをするのですが、感染対策のためそれも中止。有志で近くのバーに行って解散しました。
この2年間、パトリックを始め素晴らしい先生から教えを受けたのもさることながら、ヴェルサイユ地方音楽院の18世紀からある歴史的な建物の部屋で練習、演奏する機会を得ていたことは大変貴重だったなと、改めて思いました。

このヴェルサイユ便りも次回で最終回になります。引き揚げ準備の模様と、留学の総括を書きたいと思います。

オディール・エドゥアール女史のマスタークラス

2 7月 2020
オディール・エドゥアール女史のマスタークラス はコメントを受け付けていません

ここ数日間はやや涼しくなりましたが、先週は快晴で気温が30度を超える日もあり、いよいよ夏本番かというところです。
先週の金曜日にはパトリックのレッスンがあり久しぶりに音楽院に入りましたが、入り口には消毒ジェルが設置され当日レッスンを受講する生徒かどうかを名簿でチェックしており、学校での自主練習は当分できないのだそうです。アンサンブルの授業も今期はもうないようで、このままおさらばという人も多いのではないでしょうか。
またヴェルサイユ宮殿の庭園では先週から9月まで毎週土曜日の夜に花火大会が行われ、夜10時頃になると破裂音が私の家まで聞こえてきます。私が来週から出演予定の夜会の方も無事に第一週目を終えたようです。

さて今回は土曜日に行われたオディール・エドゥアールOdile Edouard女史によるマスタークラスの模様をお伝えします。
オディール・エドゥアール女史は長年にわたりリヨン国立高等音楽院のバロック・ヴァイオリン科で教鞭をとっているフランスでも高名な演奏家、教育者です。日本人で現在活躍しているバロック・ヴァイオリニストでもオディール門下の人は多く、当アンサンブルでもお馴染みの出口実祈さんもその一人で、彼女のこの数年間の急激な成長と活躍ぶりはオディールなしには語れないでしょう。
そんな出口さんからオディールがパリでマスタークラス(Mini-stageということでしたが実際はマスタークラスでした)を開くという話を聞き、すぐに参加を申し込みました。今回は完全無料ということでかなりの希望者がおり、本来25日木曜日だけだったはずが土曜日も開催され、私は2日目になりました。
テーマはルクレール、ギユマンなどを中心にフランス18世紀前半のヴァイオリンデュオまたはソロ作品ということで、私はヴァイオリンの知り合いとはどうにも都合がつかなかったのでチェロの知り合いにバスを頼んで、モンドンヴィルの『倍音によるソナタ』作品4のソナタを持っていきました。
ノースリーブのワンピースにサンダルの出で立ちでアクティブな感じのオディール。話してみるととても親切で包容力のある雰囲気がすぐに伝わってきました。教育者にはぴったりの性格といったところですね。
私のレッスンでは主に音色や表現の違いをもっとはっきり出すということ、それを一緒に弾く人に演奏の中で強く主張していくということと、肩の力を抜いて右手をしなやかに扱うことなどを指摘していただきました。いずれも長期的な課題ですね。特に右手の技術やエクササイズについては後のレッスンでも度々話題にしていて、とても参考になりました。
他の受講生はこの日は全員デュオで、ルクレール、ギニョン、ギユマンを聴くことができました。数人見かけたことがありおそらくパリ地方音楽院の生徒が多かったのだと思いますが、まあ個々のレベルはピンキリといった感じですね。
終盤あたりから聴講生に対して、この曲の発想記号(アレグロやアンダンテなど)は何かというクイズコーナーがありましたが、正解するのはかなり難しかったですね。即ち聴き手が事前に知らなくても曲のテンポや表現から作曲家の指示を読み取れるように演奏しなければならないということです。
最後にお礼とお別れの挨拶をした時に「一緒に弾く人に自分のやりたいことをしっかり主張してね」と念を押されました(笑)。頑張ります…。

次回は今年こそは夏を快適に過ごしたい!ということで私の2年目の猛暑対策をご紹介したいと思います。

J.S.バッハ無伴奏曲集のマスタークラス

12 2月 2020
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マスタークラスはチェロ、ヴァイオリンの2日間行われました

先週は月曜日に校内演奏会、木曜日に王室礼拝堂木曜演奏会、土曜日に今回のテーマであるマスタークラスがあったのでとても忙しかったですが、今週に入り2週間のバカンスになったのでようやく一息つけるというところです。
このマスタークラスはヴェルサイユでは珍しく(?)J.S.バッハ、特にヴァイオリンとチェロの無伴奏曲集に焦点を当てたもので、講師はヴァイオリンにクリスティン・ブッシュChristine Busch、チェロにオフェリー・ガイヤールOphélie Gaillardを迎えて行われたものです。2人とも古楽的アプローチを主とする奏者ですが、古楽科だけの企画ではなく生徒はモダンとバロック半々くらいでした。
オフェリーの方は水曜日に行われていて私は行くことができませんでしたが、伝え聞くところによるとチェロの鳴らし方、重音奏法等々とても有意義なレッスンであったようです。
さて今回のマスタークラスのことは数か月前から予告されていたのでヴァイオリン科は各自バッハの無伴奏を用意しましたが、私はせっかくなので大曲であるソナタ第3番のアダージョとフーガに取り組みました。そうです、あのコラール(ロンドン橋の歌じゃありませんよ笑)に基づく長大なフーガです。体力的な問題はありつつも個人的には3つあるソナタの中で一番弾きやすいんですよね。
年明けからパトリックに何度もレッスンを受けましたが、問題になるのはいつもテンポがどうしても遅くなってしまう、音を持続しすぎるなどモダン時代の名残からくるものばかり。モダン時代にもこのソナタを好んで弾いていただけあって、どうしても抜けない習慣という物があるものですね。
クリスティン・ブッシュはシュトゥットガルト生まれのドイツ人で、アーノンクールのウィーン・コンツェントゥス・ムジクスやフライブルク・バロックオーケストラなどでの活動経験を持ち、ベルリンやシュトゥットガルトで教鞭をとりつつ古楽、モダン双方で活躍しているようです。今回も彼女はバロック、モダンの2つの楽器を持って来ました。
私の番の前に2人モダンの生徒がいましたが、これが何というか、何だか懐かしいような、15年くらい前は自分もああやって弾いていたなという感じでした(笑)。モダンの世界からはずいぶん前に離れてしまいましたが、ヨーロッパですら今でもこういう弾き方って一応主流なんですよね。しかも地方音楽院だからなのかどうなのか、レベルが正直あまり高くありません。1人目はソナタ第2番の第1楽章グラーヴェを弾いていて、バスラインの弾き方や和音の表現などがレッスンの中心でした。これはまあ、古楽的アプローチの入門編といったところですね。2人目はソナタ第1番の第4楽章プレストを弾いていましたが、こういった急速な楽章はモダン弓の問題が顕著に表れます。クリスティンは即座に自分のバロック弓を貸し与え生徒に弾かせると、この問題は9割方解決しました。この生徒の順応力の高さに皆驚いていて、クリスティンが「弾いたことある?」と聞きましたがその時が初めてだったとのことでした。それから彼女は持っているいくつかの弓を年代順に貸して最後に生徒のモダン弓に戻すと、もう弾き方が違います。こういう教え方もあるのだなと思いました(といっても私は中間年代の弓の持ち合わせがないので出来ませんが…)。
さて私の番。まずはアダージョを最後まで弾くと、論争の多い付点の匙加減問題からスタート。彼女は基本的には付点を長くせずに16分音符をほぼ音価通り弾くという立場のようで、私としてはこれは未だに結論は出ていませんが付点を若干長く弾いていたのでもう少し音価通り弾くよう勧めました。試してみるとこれが意外と良いんですね。後は和音の色付けや、多種類の音色を使い分けるようにとの勧めなどがありました。
次はフーガ。とにかく長大なので「反行形」の提示までのレッスンになってしまいましたが、フーガ主題のボウイングやアーテュキレーションがまず問題になりました。私は元が讃美歌であるコラールというだけあって全体的に滑らかに弾いていましたが、もう少し短く処理する音があっても良いとの勧めを受けました。後は細かいところは色々ありましたが、大まかにいうと壮大かつ重厚なフーガの中でいかに軽い部分を作るか、音色を使い分けて静かな部分を作るかという問題が大きく取り上げられました。
私の後は古楽科の同僚が、私のフーガとは一転して優雅なパルティータ第3番のガヴォット・アン・ロンドーを弾きました。さすがフランス人、弾き方がお洒落(笑)。クリスティンはドイツ人ですが負けず劣らず優雅かつ祝祭的な音楽の作り方を指導していました。
マスタークラスが終わって夜になると、ヴァイオリンとチェロの受講生の一部、クリスティンが演奏会を行いました。オフェリーは残念ながら来られなかったようです。私ももちろん弾きましたよ、アダージョとフーガ。通して本番で弾いたのは実は初めてかもしれません。良い経験でした。
私の後にはクリスティンが第3楽章と第4楽章を弾き、ソナタ第3番を通して聴けるような演出がなされました。最後に彼女はもう一度、今度はモダンヴァイオリンヴァージョンと題して同じ2曲を披露していましたが、私の個人的な感想としては、実はモダンヴァイオリンの方が上手なのではないか…ということでした。それだけ古楽的アプローチによるモダンヴァイオリンの弾き方が彼女の中で完成されているということと、あとは楽器のポテンシャルの違いも大きいのかなと思いました。バロックヴァイオリンに関しては好みの問題もありますので聴き手次第だと思います。彼女はこの無伴奏曲集を全て録音しているので、良かったら聴いてみてくださいね。

次回は前回好評だった駿太のこだわりクッキング第2弾、カレー編をお送りしたいと思います。

古楽科オープンキャンパス

22 1月 2020
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午前中は様々な科の公開授業が行われました

先週と今週は演奏会続きです。土曜日には今日特集する古楽科オープンキャンパス、月曜日には校内の室内楽演奏会、明日は王室礼拝堂での木曜演奏会です。室内楽演奏会ではテレマンのいわゆる「パリ四重奏」の第6番ホ短調を演奏しました。名の知れた名曲ですが今回は学部生の試験も兼ねているため他のグループも多く、全ての楽章をやる代わりに繰り返しは全カット。繰り返しをカットして演奏するってどうしても抵抗あるんですよね。時間の都合なら楽章をカットして代わりに繰り返しはしっかりやるべきだといつも思います。
私たち以外のグループは今年入ったポーランド人の女の子が一手に引き受けていて、何だか嘱託伴奏員のようでした(笑)。後述しますが土曜日のオープンキャンパスでは自分の協奏曲もあったのにその上よくがんばるなと思いました。それにしても他のチェンバロ科はどこに行ったのでしょう…?

さて、今回は先週土曜日に開かれた古楽科オープンキャンパスの模様をお伝えします。
10月にお伝えしたオープンキャンパスはモダン科も演奏していましたが、今回は古楽科だけのオープンキャンパス。それだけ大所帯ということですね。
ちなみに先日も書きましたが、このオープンキャンパス内の演奏会では今年入学した研究科の学生が1人ずつ協奏曲を披露し、一応形だけの中間試験を受けます。今回はヴァイオリン2人がそれぞれヴィヴァルディの協奏曲、リコーダー1人がテレマンの室内協奏曲、そして前述したポーランド人のチェンバロの女の子がJ.S.バッハのチェンバロ協奏曲BWV1057を弾きました。そうです、あのブランデンブルク協奏曲第4番のチェンバロ版です。オケパートのヴァイオリンは私とパトリックが全て担当しました。
オープンキャンパスの午前中は公開授業となっていて、私たちの午後に向けたリハーサルも公開となりました。私含め生徒たちはいつもの癖でそこかしこの椅子に荷物やら楽器ケースやらを置いてしまっていたので、お客様が増えてくると片づける羽目に…。
リハーサルをしていたのであまり行けませんでしたが、他の部屋でも並行して室内楽や専攻のレッスンが公開で行われていました。休憩の合間を縫って私も少しだけ他専攻のレッスンにお邪魔。こういう機会はなかなかないですものね。
そんなこんなでしっかり昼食をとる暇もなく午後の本番が始まりました。ヴァイオリンの2人はアマチュアなのであまり期待はしていませんでしたが無難にまとめてきてくれました。リコーダーの子とはリハーサルが少ない中で先週の1回のレッスンで細かい指導があったため上出来。トリはチェンバロ協奏曲、あの速くて難しいパッセージ共々素晴らしい演奏を披露してくれました!一方で残念だったのは我々オーケストラ。前日までのリハーサルはたった2回でこの曲をやるにはただでさえ少ないのに、リコーダーとヴィオラ奏者が交代となって本番のメンバーがそろったのは当日だけという始末。あれだけソリストが仕上げてきてくれるなら我々ももう少し準備したかったです。

さて私たちの本番が終わってしばらくすると、金管やオーボエのアンサンブルとより音の小さな室内楽の演奏会が並行して開催されたので私は金管やオーボエのアンサンブルを聴きに行ってみました。ナチュラルトランペット、サックバット(トロンボーンの古楽器)、オーボエがそれぞれバンドを組んでルネサンスからバロックまで様々な曲を披露しました。オーボエはオーケストラによく顔を出すので顔見知りも結構いるのですが、金管の学生ってこんなにいたんだなと初めて知りました(笑)。あとトランペットバンドはもう少し大きな場所で聴きたかったですね。学校の中庭とか。
夜にはもう一つ、ヴィオラ・ダ・ガンバや撥弦楽器主体の室内楽の演奏会がありました。私は午後の本番で疲れが出て、開始まで家で仮眠をとるつもりが本格的に寝てしまい行くことができませんでした…。

日本にはない、専攻も豊富な大所帯の古楽科ならではのオープンキャンパスといった感じでした。これを機に他科とも積極的に交流を図っていきたいなと思いました(もう半年くらいしかありませんが)。

次回は新シリーズ、駿太のこだわりクッキング第1弾です。

ヴェルサイユ地方音楽院のオープンキャンパス

23 10月 2019
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今年工事が完了したヴェルサイユ地方音楽院のホール

昨日は天皇陛下の即位礼正殿の儀が執り行われましたね。私もネットの動画で観ましたが、日本の伝統に誇りを感じることのできる厳かな儀式に見えました。
こちらの方はというと、2週間のバカンスに入りました。去年も全く同じことを思ったのですが、始まって早々バカンスというのは何だか出鼻を挫かれるような感じがするんですよね…。

さて今回は先週行われたヴェルサイユ地方音楽院のオープンキャンパスについてご紹介します。
オープンキャンパスでは14日から18日まで連続5夜、各科の演奏による演奏会が行われました。全部は把握していないのですが、少年少女による合唱やダンスなど幼少教育部門も参加していたようです。
この演奏会は音楽院の正面奥にあるオディトリウム(ホール)で行われました。昨年はずっと工事していた建物で、私は今回初めて演奏に使用しました。古楽には響きも雰囲気も音楽院のアパルトマンの方が良いように感じましたが、照明設備も完備された綺麗なホールです。
私は第一夜と第五夜に参加しました。第一夜はミシェル=リシャール・ドラランド作曲の「ヴェルサイユの噴水」のごく一部を上演。指揮は師匠パトリックです。楽隊の編成はあまり大きくありませんでしたが、ヴェルサイユ・バロック音楽研究センターからは今年からの新メンバーを交えた歌手たちが参加し、相変わらず素晴らしい演奏をしてくれました。リハーサルは当日の午後、2時間程度やった後にホールで通しリハーサルをしたのみ。当日リハーサルで本番というプロジェクトは初めての経験でした。面白かったのはアンコール用に歌詞を差し替えたこと。ルイ14世に向けられた「最高の偉大さに敬意を表そう」を「このオディトリウムに敬意を表そう」と「クロード・ドビュッシーに敬意を表そう」(このホールがドビュッシーの名を冠しているため)に差し替えて歌われました。燦然と輝くルイ14世賛歌の音楽にドビュッシーの名が登場したのです(笑)。
第五夜はマラン・マレのトリオの一部を演奏。ヴァイオリンはパトリックと私のみ、他はリコーダー、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ギターとパーカッションの先生が当日合流しました。この先生とは今回初めてお会いしましたが、リハーサルで2回ほど通しただけで見事にパーカッションを付けてくれました。
ホールの規模はそう大きくはないので200人程度の収容力ですが、2夜とも満席だったと思います。

来週はフランス南西への旅、まずはボルドー編です。

留学1年目の総まとめ

31 7月 2019
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すっかり仕事場になったヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂


ついに梅雨が明けましたね。日本の夏はフランスに比べて湿度が高く、まとわりつくような暑さで汗がなかなか乾かないのが曲者です。私は汗をかきやすいのでフランスの方が過ごしやすいですね。
先週末は西日本の方へ旅行に行ってきました。ずっと行きたかった広島県の厳島神社に行くことができたのと、山口県のSLやまぐち号に20年ぶりに乗車、京都の鉄道博物館にも寄って日本の鉄道を満喫してきました。やはり日本の鉄道は面白いです。

さて、今回は留学1年目の総まとめということで、この1年間にあった主なトピックと感想、お役立ち情報について書ければと思います。

・師匠パトリック・コーエン=アケニヌ
一昨年の9月に一度会ってレッスンを受けただけでの渡仏でしたが、今の自分の目指す目標にはとても合致した先生でした。特にアンサンブルでの統率の仕方を彼から学んでいます。
来年度はプロのオーケストラにいくつか呼んで下さるとのことなので、今から楽しみです。

・ヴェルサイユ地方音楽院
学校については過去の記事でも取り上げましたが、18世紀の建物の響きを感じられること、学校のプロジェクトでヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂や大厩舎などで演奏できたことはとても良い経験になりました。入学時のガイダンスがほとんどなく、例えば部屋の使用の際に守衛に一声かけることは後になって知りましたが(笑)、2年目も積極的に活動していきたいと思います。
来年度はパリ地方音楽院と合同でマレの音楽悲劇上演プロジェクトがあるとのこと!

・フランス語
うーん、何とかここまで来ましたがまだまだ力を伸ばしたいです。私の場合はただ会話ができればいいということではなくて、18世紀以前の専門書を読んだり、オペラやカンタータなどのテキストの朗唱法や詩の裏側まで知らなければいけないので…。
会話でもここのところは新たな問題があって、頭で文章がある程度速く作れるようになった分、口が追いつかないんです。私は日本語でも唇をほとんど動かさずに話す癖があって、フランス語の発音に必要な唇周辺の筋肉が全然足りていないんですね。発音練習を飽きずにやっていきたいと思います。
またフランス語は多少上達しましたが、日本語ほど高度な会話はできずにいたので言語能力そのものは落ちてしまった気がします。ある程度日本人の友人は近くにいた方が良いのかもしれません。

・住居
現在の部屋は内見せずに渡仏前に契約しましたが、少し狭いだけで基本的には問題なく大家さんもとても良い方でした。あと学校や宮殿に近いのが何よりの魅力。
住居関連のトラブルは多いと聞くので良かったです。

・行政その他の手続き
滞在許可証の手続きなどは現在も面会の予約を取って書類を提出するという形ですが、現在は住宅補助や社会保険などオンラインでできる手続きが多くなり、自分のペースで落ち着いて説明を読んで進められるようになりました。今後もどんどんオンラインでできる手続きの割合は増えていくと思います。

その他…
・フランスは生活に必要な雑貨が軒並み高いので、出国前に日本の100円ショップで一通りそろえて行ったのは大正解でした。今回も少し買い足していきたいと思います。
・「アポスティーユ付きの戸籍謄本を法定翻訳した書類」の準備がキャンパスフランスのガイダンスやネット上で話題になりますが、結果的に提出するのはいつも翻訳書類である出生証明書のみで、戸籍謄本の原本を提出する機会はありませんでした。アポスティーユは原本についているもので出生証明書にには反映されないので、アポスティーユは必要なかったことになります。また翻訳はパリの日本大使館に依頼しましたが、提出の際にこの点を咎められることは全くありませんでした(大使館で行ったものは法定翻訳にはならない)。ただ、大学など高等教育機関へ登録する場合にはこれらが必要なのかもしれません。
・フランス人たちは日本のことついてとても興味を持ちながら話を振ってくるのですが、あまり詳しいことになると私も時々知らないことがあり返答に困ることがありました。例えば豊洲市場の移転に関する詳しい経緯とか、日本の寺社に使用されている木材は何なのかとか。世界で活躍する日本人の一人として、もっと日本のことを知らなければいけないなと思いました。

・総括
留学前、このグローバル化された現代社会において果たして音楽留学は必要なのかと思っていた時期がありました。しかし今ははっきりと断言できます。西洋音楽を学ぶならヨーロッパへの留学は絶対にお勧めです。
まず何といっても建築物が違うんです。日本にはコンサートホール以外にクラシック音楽の演奏に適した空間はほぼないと言って良いでしょう。またバロック音楽を始めとした古楽の演奏においてはこうしたホールもほとんどは大きすぎて不向きです。私はヴェルサイユの王室礼拝堂や地方音楽院のアパルトマン、市庁舎の大広間といった18世紀の建築物での演奏を通じて、演奏する空間の大切さを改めて思い知りました。
また絵画や彫刻などの素晴らしい作品をルーヴル美術館等で気軽に見ることができるのも大きいです。音楽という抽象的な芸術を知っていくには、具象化された芸術である建築や美術の理解が大きな助けになります。しかし残念ながら渡仏前の自分は音楽を勉強することはあっても、他の芸術を勉強することについては全く足りていませんでした。日本にやってくる美術品などほんの一握りです。是非一度ヨーロッパで素晴らしい建築物を見て、美術館や博物館を回ることをお勧めします。

今回は留学1年目の総まとめをお伝えしました。
8月の更新はお休みさせていただきたいと思いますので、次回は9月にヴェルサイユに戻ってからまた書きたいと思います。
今後とも当ブログをどうぞよろしくお願いします。

ヴェルサイユ宮殿観光の手引き①

13 3月 2019
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もうどこを撮影してよいか分からないほどの豪華さを誇るエルキュールの間

春の嵐というのはフランスにもあるようで、今週は風が強い日が多かったり、天気が急変する日が多いです。一昨日は少しですが雹が降りました。
先週はオーヴェルニュから帰ってすぐに学生オーケストラのプロジェクトが始まりました。「王立音楽アカデミーの不評に終わった作品たち(Les échecsとはつまり失敗作という意味ですが…良い訳が思いつきませんでした)」というタイトルで、シャルパンティエの《メデ》、ジャケ・ド・ラ・ゲールの《セファルとプロクリス》、アンリ・デマレの《テアジェーヌとカリクレ》の抜粋を演奏しています。今回も光栄なことにコンサートマスターを務めさせていただいているのですが、管弦共々とにかく人数が多くて大変…。ニュアンスはおろか、装飾の有無一つとっても突き合わせるのが至難の業です。昔はいったいどうやって規律ある演奏をしていたのかと、リハーサルをしながら思いを馳せる日々です。しかもバカンスが明けたので、今週のリハーサルは木曜のみ…。はてさてどうなることでしょう。

さて、今週から皆様お待ちかね?のヴェルサイユ宮殿をめぐるシリーズをお送りしたいと思います。
形態としましては、観光の順路に沿って各所説明を加えていき、私ならではのコメントをしていきたいと思います。詳しい歴史や絵画、調度品の由来などは書くとキリがありませんので、専門書へ譲ることとします。

・見学の前に!
①後述のようにチケット売り場はありますが、連日世界中から観光客が訪れるためヴェルサイユ宮殿はいつも混み合っています。公式ウェブサイトからチケットを入手でき、入口でスマートフォンのチケット画面を提示すれば売り場に並ぶ必要がなくなるのでお勧めです。
②スマートフォンアプリで「Versailles 3D」と検索すると、外観のみながら各年代のヴェルサイユ宮殿の姿をスマートフォン画面上で見ることができます。今日の姿と画面の中の昔の姿を比べながら見てみるととても面白いですよ。

・それでは宮殿へ
RERC線のヴェルサイユ・リーヴ・ゴーシュ駅を降りると目の前にバス停やマクドナルドがあります。まず通りを右に進んで、次の交差点を左に曲がると、何かと見間違うことは絶対にないあのヴェルサイユ宮殿が現れます。通り沿いの右手には大厩舎(馬車博物館と馬術学校)、左手には小厩舎(予約すればツアーにて見学可能な彫刻収蔵館と修復所、建築学校)があります。
宮殿前に付き、まず目に留まるのはルイ14世の騎馬銅像です。この像はルイ=フィリップ王の治世下である1836年に宮殿内で展示されるために作られたものでしたが、2009年に修復の上宮殿前に設置されました。意外と最近なんですね。
第一の柵と門の前の広場を「プラス・ダルム」といいまして、要するに兵隊が集う場所という意味ですが、今日では主に駐車場になっています。第一の門にあるテントで保安上の理由により、カバンを開けるよう要求されます(楽器ケースを開けるように言う人もいます笑。)
テントをくぐると、左右に縦長の建物があります。ここから第2の門までの広場を「栄誉の中庭」といいます。右が「北の閣僚翼棟」、左が「南の閣僚翼棟」と呼ばれ、18世紀には名の通り政府の閣僚たちが生活していました。現在は右側は年間パスポート販売とガイドツアーのための棟、左側が案内所と一般チケット売り場、あと実はお土産売り場があります(正殿内にもありますが、この棟の方が穴場です。)
ちなみに南の 閣僚翼棟にはグランコミューン(厨房がある正方形の施設)へ抜ける地下道があり、普段は柵で閉鎖されていますがここを通るツアーがあるようです。参加してみたい!
さてチケットを手に、いよいよ正殿の見学を始めます。正殿正面には左右に対となるギリシャ神殿風のファサード(面)を持った棟があり、右がガブリエル棟、左がデュフール棟といいます。グループツアーを除く宮殿観光は左の「A」と書かれたデュフール棟からアクセスし、グループツアーや演奏会などは右の「B」と書かれたガブリエル棟です。正面の金色の門からは入れません笑。
これら2つの棟についてあまり言及しているウェブサイトがないので少しだけ紹介しておきますね。
右のガブリエル棟はルイ15世の治世末期である1771年から、正面のファサードを改造する目的で壮大な構想が練られましたが、王国末期の財政難のため途中で頓挫し現在の姿になりました。内部の階段は作られることなく時は流れ、約200年後の1985年になってようやく内部が完成しました。アツいですね!
一方の対となるデュフール棟は、ガブリエル棟の建設によって左右の景観が崩れたのを嘆いたナポレオン1世が左右対称となるべく建設を命じたのに始まり、その後の復古王政期の1821年に工事が終了しました。しかし左右対称となったのはファサードのみで翼棟自体は今日も左右対称ではなく、正面もペディメント(破風と呼ばれる、円柱上部の3角形の部分)の彫刻は今も空白のまま未完成です。費用対効果は大きいと思うのですがいつかは作るのでしょうか…。
さてデュフール棟から中に入りチケットの提示が済むと、まるで空港のような保安検査場があります。その先には無料のオーディオガイド貸し出し窓口、地図などが置かれた案内所があります。
さて、では見学を始めましょう!(まだ始まっていなかった…)
順路としては、中庭を横切って向かい側に進むのが一応正しい順路のようですが、先に正殿の一番奥にある正面の扉から入って王女たちのアパルトマンを見ることも可能です。
王の中庭と呼ばれる広場を横切って向かい側のガブリエル棟に入ると、まず右手に王室礼拝堂があります。残念ながら一般観覧の際は立ち入ることができず薄暗いですが、演奏会の際は素晴らしい彫刻や天井画を見ることができます。後の順路で2階部分からも見られます。
あ、ちなみに順路を進んでいくとなかなか化粧室がないので、礼拝堂手前の化粧室には不安があれば入っておきましょう。
順路を進むと左手にヴェルサイユ宮殿の歴史に関する展示室が続きます。宮殿の増築の様子が興味深い3D映像で流れていて、オーディオガイドから自動で各言語による音声が流れる仕組みになっています。他には王族の肖像画、ヴェルサイユやその他宮殿の眺望を描いた当時の絵を観ることができます。最後の部屋には宮殿修復の様子の映像も流れていて、まさにヴェルサイユは1日で成らず、今日もその歴史が続いていることを認識させられます。
階段を上った先には王室歌劇場へ続く廊下がありますが、歌劇場も一般観覧はできません。通路を進むと企画展示室があり、少し前まで「ルイ=フィリップ展」が催されていました。現在は目下片付け中です。
通路を進むと「礼拝堂の間」があり、巨大な円柱が立ち並ぶ広々とした空間の中で、金箔の装飾が施された礼拝堂の扉は一際目を惹きます。午前10時から始まるミサに備えて正殿からやってくる国王を一目見ようと、ここに人々がひしめき合っていたとのこと。
さて、次はエルキュールの間です。ご覧ください、この眩いばかりの輝き!!!宮殿を訪れる客人を驚かせようと、ルイ14世が最晩年に造ったご自慢の部屋です。1710年に現在の王室礼拝堂が完成するまで礼拝に使用されていたこの空間に、様々な色の大理石を用い、上部を金箔で飾り、壁面にはヴェネツィア共和国から同盟の証として寄贈されていた「パリサイ人シモン家の宴」が堂々と飾られました。その向かいには人間が立ったまま入れそうなほどの開口部を持つ巨大かつ豪華な暖炉があります。天井画には先代の遺志を継いだルイ15世がフランソワ・ルモワーヌに描かせた、一室の天井画としては他に類を見ない大作である「エルキュールの神格化」がこの部屋の性格を決定づけています。約3年の月日を費やして彼はこの作品で成功を収めたにも関わらず、製作の心労が重なって直後に自殺してしまったそうです…。
昨年皇太子殿下が来訪された際の晩餐会に使われた部屋もこのエルキュールの間だったそうですよ。

さて、いよいよここから国王のアパルトマンに入っていくわけですが、それはまた次回のお楽しみ…。

ヴェルサイユ地方音楽院

23 1月 2019
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オテル・ド・シャンセルリーの代表的な部屋、サル・ラモー

昨日からヴェルサイユ、パリとも雪化粧となっています。今日も一日中降雪の予報なので結構積もりそうです。
降り出した時はパリにいて、東京のような水分の多い雪で歩道がシャーベット状になって嫌だなと思ったのですが、ヴェルサイユに帰ってくると積雪が多く、少し乾いた雪質に感じられました。駅から帰るのに通る公園の小道は圧雪されたスキー場のような状態になっていて、スキーをしたくなりました笑。パリとヴェルサイユ、20kmしか離れていないのに少し気候が違うのは興味深いですね。
昨日の段階では道を行くバスや車はチェーンを付けていませんでしたが果たして大丈夫なのでしょうか…。

さて、そんな中ではありますが今回は私の通うヴェルサイユ地方音楽院についてお話ししたいと思います。
ヴェルサイユ地方音楽院の校舎はヴェルサイユ宮殿に向かって左手、シャンセルリー通り沿いに位置しています。このことからこの校舎は「オテル・ド・シャンセルリー」と呼ばれています。(オテルはホテルという意味もありますが、公共の建築物や館という意味もあります)
この他にもいくつか校舎があるようですが、古楽科はいつもシャンセルリー校舎で全ての活動が行われるので残念ながら他の校舎に行ったことがありません。ご興味のある方は公式サイトをご覧ください。
シャンセルリー校舎は、元来はフランス王国国璽保管官の邸宅で、簡単に言うならば首相官邸であった建物です。といってもすぐ横にあのヴェルサイユ宮殿があるので別に観光客が来るわけではないのですが、一応宮殿付近の史跡巡りコースに含まれていて説明書きの看板もあります。ちなみに日本語も少し訳が変ですが書かれています。
門を入ると右手に守衛所と受付、奥に自販機コーナーと事務所があります。正面にはオディトリウムと呼ばれる演奏会用ホールがあるのですが現在工事中で、私もまだ入ったことがありません。そして左手がレッスンや練習をする部屋がある建物となっています。
この建物は2階建て(日本でいえば3階建て)となっていて、殆どの部屋に作曲家の名前が充てられています。それが流石ヴェルサイユらしくバロック時代の作曲家、リュリやラモーは勿論のことド・ヴィゼー、カンプラ、ド・ラランドや12のオボワ、24のヴィオロンの部屋などもあって、ファンにはたまらない演出となっています(違)。
0階と2階は現代の音楽院らしい近代的な内装になっていますが、1階の各部屋は18世紀の雰囲気が色濃く残されており、中でも中央に位置ししばしば演奏会に使われるサル・ラモーは格別です。天井の装飾とそこから吊り下げられたシャンデリア、今も残る大理石の暖炉など、調度品さえ揃えればすぐにでもタイムスリップしそうな空間です。しかもよく見ると、シャンデリアや暖炉にはフランス王家の紋章が…。ここで演奏できるのは本当に嬉しい限りです。

次に古楽科についてですが、人数は把握しているだけで30名近くいます。アンサンブルの授業や演奏会のプロジェクトに参加していない人は会う機会がないので、実際はもっと多いかもしれません。ヴェルサイユ地方音楽院は古楽と現代音楽の分野に力を入れているようで、相応に学生が集まるのでしょう。
月曜日は古楽のレッスンや授業が多いようで、ヴァイオリン、フルート・ミュゼット、リコーダー、チェンバロのレッスンが行われていることは把握しています。アンサンブルの授業は現在私が通っているバロック室内楽の授業と、私は行っていませんがルネサンス・コンソートの授業もあるようです。私が知らないだけでまだあるかも知れません。
専攻とアンサンブルにはそれぞれ発表の機会が隔月くらいの頻度であり、一般公開されています。地元情報誌に掲載されており、ヴェルサイユ市民の紳士淑女が毎回訪れています。毎度書きますがこうして地域貢献ができることは良いことですね。
学生生活や授業についてはまた今後も追記していきたいと思います。

今回はヴェルサイユ地方音楽院についてでした。次回はヴェルサイユにある特徴的な名前の通りをいくつか紹介したいと思います。どうぞお楽しみに。

ヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会

17 1月 2019
ヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会 はコメントを受け付けていません

ゲネプロ直前の王室礼拝堂祭壇付近

このところは少し青空が見えるヴェルサイユです。いつも曇ってばかりだと少し晴れ間が見えただけでとても嬉しいものですね。
先週から以前リハーサルしていたラモーの「優雅なインド」の本番が始まりました。1回目は王室礼拝堂、2回目はシリー・マザランにあるとある小さな教会、今週末はオルセー県立音楽院の音楽堂です。1回目は割と良かったのですが2回目はずれたり色々な事故がありました…有り難い事に第1ヴァイオリンのトップをやっているので何かあった時は対処せねばならないのですが、一人の力ではどうにもならない事もあります。
先週の土曜日はパリ国立高等音楽院の教育学の授業に縁あって参加してきました。国立の学生が先生の前で生徒役にレッスンをして、それに後から先生がコメントするという授業で、私は生徒役。同じ年代の、レベルが同じ人にレッスンを受けるのはなかなか新鮮でした。

さて、今回は前述の「優雅なインド」で初めて参加した、ヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会Les jeudis musicauxについて書きたいと思います。
今期は昨年の11月から今年の6月までの24回、木曜演奏会が予定されています。ヴェルサイユバロック音楽研究センターが主催している演奏会で、センターの歌手だけでなくパリ国立高等音楽院のオルガン学生や周辺の地方・県立音楽院の学生も演奏に参加しています。場所はヴェルサイユ宮殿の王室礼拝堂で、演奏謝礼は出ませんがあの空間で弾けるということはとても光栄ですし良い勉強になります。
お客の方も入場料は無料で、予約は不要ですが先日もほとんど満席でしたので、行く場合は少し早めに行った方が良さそうです。客層は年齢層が高めで、偶然居合わせた観光客もいるでしょうがやはりヴェルサイユ市民が多いのではないでしょうか。こうして学生が地域貢献できるところが、ヴェルサイユの良いところです。
さて、当日はセンターで1時間半ほどリハーサルをした後、みんなで徒歩で移動してゲネプロとなりました。私は寄り道して着替えてきました笑。宮殿が目の前に迫ってくるにつれ、とても引き締まる気持ちになりました。ルイ14世の時代から、一体何人の音楽家が同じ道のりを歩んだ事でしょう。自慢の作品を携えて来た者、誰にも負けない演奏技術を披露しに来た者、そして父親に連れられてきた8歳の神童モーツァルト…。全ての者がきっと、こんな気持ちになったに違いありません。いや、彼らの時代は国王がいたわけですから私とは比べ物にならないか。そんなことを考えながら、門に向かって歩いて行きました。
ゲネプロは16時からでしたので、宮殿内にはまだ観光客がいました。演奏会がある時以外は礼拝堂の入り口に柵が置かれているのですが、楽器を持った私を見ると横にいたスタッフが柵をずらしてくれました。うーん、関係者として入れるのって嬉しいですね!
そのまま左手奥まで進むと下に降りる階段があって楽屋があります。礼拝堂は暖房が効いていますが楽屋との間の階段はとても寒かったです。楽屋は小さい部屋が一つと台所が付いた部屋が一つ、男女一つずつの少し広い部屋があるだけでした。昔はここはどう使われていたのでしょうか。壁には修復工事の図面が貼ってあり、工事の会議もここでやっているようです。
そうそう、書いていませんでしたが現在王室礼拝堂は修復工事中で、外壁はすっかり足場を隠す大きな壁で覆われています。その壁にはよくあるように写真が使われていてただの壁ではないのですが、それにはなぜか内装の写真が使われています…。こういうのは外装の写真を使ってなるべく見た目にも遜色ないようにするのではないのでしょうか。均整の取れた宮殿で一際目立つ礼拝堂なだけに、この外装は大きく景観を損なっている気がしてなりません。早く修復が終わってほしいものです。内部はあまり工事しているのが気にならないようになっていますが、上部にあるいくつかの窓は木版で塞がれています。
リハーサルを始めてしばらくの間、工事の音が続いていました。なんだかとてもシュールな現場で、師匠で指揮のパトリックも嫌な顔をしていましたが作業終了時間までどうにもならなかったようです。
祭壇の前の床は色の付いた大理石により美しく装飾されていて、さながら南仏で見たローマ劇場の舞台のようです。2階部分にも巨大な円柱が使われていますし、他の大聖堂や教会にはない華麗さがこの礼拝堂にはあります。
音を出してみると確かに響くのですが、先日行った演奏会で感じたようにやはり音が散っていく感じがします。そのせいなのかどうなのか、巨大な空間の中で自分がとても小さな存在のように感じられました。今日はただ一ヴァイオリン奏者のはずなのに、場所に威圧されるというか、雰囲気に飲まれるというか…ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂ということで意識しすぎなのかもしれません。来月ルクレールの協奏曲を弾く前に一度弾けて良かったです。
本番はパトリックの短い挨拶があった後、まずはオルガン演奏でスタート。優雅なインドの序曲をオルガンで聴くという滅多にない機会。でもやっぱりオーケストラでしょ!という事でもう一度序曲から、オーケストラ演奏がスタート。
進行していくと、途中でパトリックがタンブーランを忘れたまま進行してしまうというハプニングが発生。彼はお辞儀をして奥に引き上げて行ってしまったので、空気を読んで次の曲はどうするのか聞きに行くと、「心配しないで!」という事でした。彼も多分途中で気がついたのでしょう。これは最後にアンコールとして加えることで見事に解決、ついでに有名な「未開人のエール」ももう一度演奏して観客は大盛り上がりでした。
演奏はまずまずの出来で、無事にヴェルサイユ宮殿デビューを終えることができました。次は鏡の回廊デビューを狙いたい!
ちなみにこの演奏会はぴったり1時間と決められているらしく、1曲アンコールしたものの進行はとてもスムーズでした。観覧時間はもう終わっているので、ヴェルサイユ宮殿自体を閉めるためだと思います。
帰りはいつもの通り、徒歩数分で自宅に着きます。本当に良いところに住んだなと、しみじみ思いました。

今回はヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会についてお伝えしました。次回は私の通う、ヴェルサイユ地方音楽院について書いてみたいと思います。