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修了リサイタル

23 9月 2020

サル・ラモーでの最後の演奏会になりました

先週土曜日は帰国に際して処分する品を譲渡するために、パリ周辺に住む知り合いを数人誘って交流会を開きました。私自身、引き揚げる3人の方からいろいろな品を譲っていただいていたので、大半の品が次の持ち主の手に渡って良かったです。ただテュイルリー庭園でやっていたのですが、途中から大雨になって散々な目に…。笑
日曜日はツール・ド・フランスの最終ステージで、ヴェルサイユ宮殿前もコースに含まれていたので観戦に行きました。15時半頃からスポンサー企業の車列がクラクションを頻繁に鳴らして粗品を観客に放り投げながら通過。警察や救急車の乗員まで車内から記念撮影を行ったりしていて、何だか良くも悪くもフランスだなと思いました。そのまま待つこと1時間半あまり、競技者たちが通過。殆ど群衆で走行していたので長らく待った割にはわずか1分ばかりの観戦時間でした。まあ一度見てみたかったので良い思い出です。本当は同日行われていたルマン24時間耐久レースに行きたかったのですが、次の日にリサイタルを控えて土曜日から泊まりがけはさすがに叶いませんでした…。

さて今回は修了リサイタルの模様をお伝えします。
元々6月に試験を兼ねた修了リサイタルが予定されていたのですが、感染対策のため全ての公開試験は中止となり、2019年度の卒業者は試験がないまま卒業となってしまいました。しかしこれで私が留学を終えるのはあまりに不憫に思ったのか、パトリックが9月に記念のリサイタルをやるように勧めてくれました。
ヴェルサイユの音楽活動ではリュリを始めルイ14世時代の作品を演奏する機会が非常に多く大変勉強になりましたが、私がテーマに選んだのはルイ15世時代のロココ様式。ルイ15世の王女でヴァイオリンを達者に弾いたマダム・アデライードに捧げるプログラムという体裁を取りました。
何故ロココ様式を選んだのかというと、まず日本にいる時からこの様式が好きだったのと、ヴェルサイユ宮殿の多くの部屋はルイ14世の死後様々な主人によって改装されていて、まさにロココ様式の粋を今日に伝えており、それらを見ることによって見識が飛躍的に広がったからです。またルイ14世時代はヴァイオリンはまだあくまでオーケストラや舞踏での伴奏楽器としての役割が大きく、フランスでヴァイオリンの独奏曲が発展するのは主にルイ15世時代であり、このレパートリーを押さえるのは必須と思いました。
そんな訳で、今回選んだのはマダム・アデライードの時代にヴェルサイユで活躍したアントワーヌ・ドヴェルニュ、ルイ・オベール、ジュリアン=アマーブル・マチューの3人のソナタ。ドヴェルニュはオペラで若干有名ですが、オベールとマチューはフランスでもまだまだ知名度が高くありません。しかし特にマチューは最後の王室礼拝堂楽長として王国の終焉まで活躍しており、宮廷で非常に重用された存在だったようです。
昨年来ソロを弾く時に伴奏を頼んでいるチェロとチェンバロの同僚に今回も共演を頼むことができ、リハーサル3回、レッスン2回で本番に臨みました。彼らもロココ様式の雰囲気を掴むのはなかなか難しいようで、試行錯誤しながら進めていきました。
当日は午後にリハーサルかつ最後のレッスンがあった後、直前に2、3箇所微調整をして本番へ。音楽院が公式に主催しているわけではないのであらゆるセッティングを自分でやらなければならず本番前は結構大変でした。お客様は感染対策のため門下の同僚はリハーサルに来るなどしてできるだけ人数を絞って20人弱、間隔を開けて着席しました。
パトリックのコメントが少しあった後に私もコメント。日本語同様大まかに話の内容を決めるだけで話したので、未だフランス語が不完全なのがバレました…もう仕方ないですね。
この日も日中は暑く、室内の空気もまだ少し温かいままだったので演奏中は汗だくになりました。
2曲ソロソナタを弾いた後、最後のマチューはパトリックとのデュオ。1764年出版の作品ですがもう片足をクラシックに踏み入れたような曲で締め括りました。
通常のアンサンブルの演奏会なら終わった後にその場でパーティーをするのですが、感染対策のためそれも中止。有志で近くのバーに行って解散しました。
この2年間、パトリックを始め素晴らしい先生から教えを受けたのもさることながら、ヴェルサイユ地方音楽院の18世紀からある歴史的な建物の部屋で練習、演奏する機会を得ていたことは大変貴重だったなと、改めて思いました。

このヴェルサイユ便りも次回で最終回になります。引き揚げ準備の模様と、留学の総括を書きたいと思います。

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