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スイス鉄道乗りまくりツアー②

27 8月 2020

ブリエンツ・ロートホルンの山頂からブリエンツ湖を望む、遥か下に列車が見える

先週イタリアから帰ってきたら、フランスはすっかり涼しくなっていました。スイスに行く前はとても暑かったのですがもう秋の到来でしょうか。
さて、今回はスイス旅行の後編です。
インターラーケンを後にし、今回一番の目的であったブリエンツ・ロートホルン鉄道へ。標高2000m級のブリエンツ・ロートホルンまで行く登山鉄道で、電化が早くから進行したスイスにおいて唯一現在でも定期列車として蒸気機関車を運行している鉄道です。麓側に勾配に対応すべく前傾して造られている小さな蒸気機関車が付き、前に客車が基本2両連結されます。

前傾した形状の愛らしい蒸気機関車

小さいながらユングフラウ鉄道と同じ250パーミルの急勾配を登る蒸気機関車は何とも健気で可愛らしく、乗客も大半はやはり蒸気機関車を求めてやってくるようですね。旧来からの石炭炊き機関車もありますが、現在の主力は1990年代に製造されたオイル炊きの機関車で、これは1人で運転できるそう。できればやはり石炭炊きの機関車が良い気持ちもありますが、いつ運転するか分からないので最初の蒸機列車に乗りました。というのはダイヤ上の始発に乗ると少し安い運賃が適用されるのでそれを狙って行ってみたのですが、ディーゼルだったので次の列車を待つことにしたのです。最初の蒸機列車を待つ間は機関車単体での入れ替えや、客車の連結シーンを見られるのでおすすめですよ。歯車を持つ走行装置の機構の美しさに見とれます。出発するとしばらくはトンネルがあったりしますが、やがて広い草原に出てS字を描きながら頂上に向かって登って行きます。ここでは前方、あるいは後方に続行している列車や反対方面の列車を遠目に見つつ、眼下にブリエンツ湖が見えてきます。頂上駅には姉妹鉄道である日本の大井川鐵道との友好を示すプレートや古い機関車のボイラーの展示があり、少し歩くとレストランや土産売り場、展望台があります。展望台には機械の熱を求めているのか何故か大量の羽アリがいてあまり長居できず…。ちなみに山の裏側にはロープーウェイがあり、反対側の麓に下りることもできます。

ヨーロッパ最古の木造橋

その後中世の街並みが残る小さな都市ルツェルンに移動。ホテルに荷物を置いて日没まで観光を少ししました。
1993年に火災に見舞われましたが、14世紀に架けられたヨーロッパ最古の木造橋であるカペル橋の天井にはルツェルンの歴史が描かれている絵の連作があります。しかしドイツ語でしか説明がないので雰囲気だけしか分からず、おまけに逆順の旧市街側から渡ってしまいました。絵を見るなら駅がある方から渡りましょう。
聖堂巡りは高い天井と豪華な祭壇が美しいホーフ教会、白い内装にピンクや金色の華やかなバロック装飾が施されたイエズス会教会、小さいながら中世のフレスコ画と精巧な木彫があるフランシスコ会教会に行きました。ルツェルンはスイスの中でもカトリックを維持し、反宗教改革の拠点になっていた街です。
ヴェルサイユに関係があるものとして見ておくべきものは瀕死のライオン像です。氷河に削り取られた砂岩の岩壁に1821年に彫られた彫刻で、フランス革命時のテュイルリー宮殿襲撃とその後に非業の死を遂げたスイス衛兵たちの忠義を讃えています。負けると分かっていながら最後まで戦ったスイス衛兵たちを矢が刺さったライオンに見立て、フランス王家の紋章が入った盾をなおも守ろうとしている姿は寓意ながら胸を打ちます。スイス衛兵たちの悲劇の詳細をネットで調べつつ合掌。
1386年建造で見張り台と共に当時のまま残るムゼック市壁は少し丘の上にあります。頑張って時計塔に登ってみたらちょうど正時になり鐘が鳴りました。塔の上からは美しい街並みとルツェルン湖、遠くに次の日登るピラトゥス山などが一望できます。

まるでケーブルカーのようなピラトゥス鉄道

翌日はまた鉄活動。まずは昨日遠くに見たピラトゥス山に上るためのピラトゥス鉄道に乗車します。というか鉄道が目的なんですけどね。
ブリエンツ方向へ少し戻ったアルプナハシュタット駅の山側にある駅から出る、まるでケーブルカーのような平行四辺形型の車両を持つ路線ですが、これはケーブルカーではなく線路の間に歯車を持つラック式鉄道の一種で、最勾配は驚異の48パーセント!!!これだけの急勾配ですから歯車が絶対に外れないよう、地面に対して平行に、歯車レールを双方から挟み込むように歯車が取り付けられるロッヒャー式という世界でも唯一の機構が採用されています。この機構のために通常の鉄道のような分岐が作れず、車両ごと水平に移動したり分岐部分がひっくり返る特殊な分岐が使われているのも面白いです。
経験したことのない勾配の鉄道ですから、発車してすぐに麓の街並みが小さく見えてしまいます。なお1両が小さいため基本的に複数の列車が続行しますので、前方の列車を追いかけたり後方の列車に追われたりしながら進みます。アルプナッハー湖、ルツェルン湖を眼下に見つつ、終盤は荒々しい岩肌の崖が周辺にそびえたちます。崖にしがみつくように敷設された線路を行き、終点に到着。
イエス・キリストの死刑を決定したローマの総督ポンテオ・ピラトの霊がたどり着いたという伝説があるピラトゥス山。山頂駅からいくつかの峰に登れるので、近くにある難易度の低そうなところを3つ挑戦してみました。眼下に広がるルツェルンの街、2つの湖、平野、山脈と絶景が広がります。途中の鉄道が目的でしたが登った甲斐がありました。
ルツェルンに戻り、今度はスイス交通博物館へ。旧市街から少し離れたところにあるので、湖畔に沿って散歩しながら行きました。ここはすごい!鉄道の展示はもちろんのこと、「交通博物館」の名の下にロープーウェイ、自動車、船舶、航空宇宙、果てはソリやボブスレーまであり、全てが網羅されている博物館は一日いても飽きないと思います。鉄道は国鉄の車両はもちろん、ユングフラウやブリエンツの機関車、ピラトゥスで開業時に使用されていた蒸気動車の展示もあり、また近年完成したゴッタルド・ベーストンネルに関する展示が広くとられていました。あと特筆すべきはその多くが体験型であること。多くの車両に入ることができるのはもちろん、シュミレーター、手で動かして構造を理解するための模型、中庭では工事現場を模したエリアで小さなショベルカーや石を運搬するベルトコンベアで遊ぶことができます。子供向けですが私も少しやってみました(笑)。こうやって子供たちに遊ばせながら交通に関する知識を学ばせ、将来の人材育成につなげようという姿勢が感じられました。

フルカ山岳蒸気鉄道の蒸気機関車

最終日はフルカ峠を走るフルカ山岳蒸気鉄道に乗車するため、ルツェルンから南下。昨日博物館の展示で見た鉄道の難所ゴッタルド峠を途中まで登り、ゲシェネン駅でゴッタルド鉄道トンネル(新しいゴッタルドベーストンネルではない)の坑口を見つつ、赤と白の鮮やかな塗装の小さな車両を持つマッターホルン・ゴッタルド鉄道に乗り換え、レアルプ駅を目指します。途中からは有名な氷河特急のルートでした。レアルプ駅に着き、進行方向に歩いていくと右手にフルカ山岳蒸気鉄道の車庫と駅舎が見えてきます。
フルカ山岳蒸気鉄道は、1982年に開通した現行線のフルカベーストンネルに置き換えられ一度廃止されたフルカ峠を越える旧線のルートを有志により復活して夏期のみ運行している保存鉄道です。廃止から10年ほど経った1992年から徐々に区間を伸ばし、オーバーヴァルトまでの全区間が開通したのは2010年。その名の通り基本的には蒸気機関車による牽引で、かつての難所に果敢に挑んでいきます。
座席はインターネットで予約していきましたが、客車に行って見ると窓に予約者リストが貼り出されていて、座席には名前が書かれたシールが貼ってありました。しかもローヌ氷河が見られる右側の座席!早く予約しておいて本当に良かった。
現行線ではオーバーヴァルトまで20分程度で着いてしまいますが、このフルカ山岳蒸気鉄道で行くと途中休憩を含め2時間10分かかります。それだけ現行線では失われた雄大な景色や蒸気機関車の奮闘を楽しめるということです!
ちなみに使われている客車は西部劇に出てくるような乗降口が屋外に設けられているタイプで、車両間を行き来する際は非常にスリリングです(笑)。指定席なので車両を移動する必要はないのですが、なかなかできない経験なので通ってみました。フルカ駅で飲食の販売があり、おじさんが美味しそうなソーセージを焼いていたので迷わず購入。こうやって運賃収入だけでなく付帯事業で収入を稼いでいるのですね。ローヌ氷河はレアルプから乗車すると終盤に見えてくるのですが、如何せん氷が殆どなく浸食された岩肌が見えるばかりでした…。全線乗車して大満足!今後も是非活動を継続していってほしいです。
その後はローザンヌまで戻り、時間があったので少しだけジュネーヴを観光してみることにしました。行ったのはジャン=ジャック・ルソーの生家。現在工事中ですが外観を見ることができました。後は宗教改革記念碑、オーストリア皇妃エリザベトが暗殺されたことを記念する銅像を見て終了。国連本部も興味がありましたが少し離れていて時間が足りませんでした。
今回行ったスイスの街はどこも清潔な印象があったのですが、ジュネーヴは少し汚い印象がありました。フランスが近いからでしょうか(笑)。

これで長かったスイス旅行は全て終了です。
その後のイタリア旅行についても記事にしようと思っていたのですが、各都市の建築物や美術品があまりに凄すぎて書いても駄文になるか超大作になりそうなので、ここで行程だけ紹介しておきますね。
最初はパリから飛行機でヴェネツィアへ。ヴェネツィア楽派の本拠地として有名なサン・マルコ大聖堂やモンテヴェルディの墓があるサンタ・マリア・グロリオーザ・デーイ・フラーリ教会などに行きました。
一泊してボローニャ、フィレンツェを通りローマへ。行程上どうしても月曜日にせざるを得ず、残念ながら多くの博物館や美術館が休館でした。ボローニャは協奏曲発展を推し進めたボローニャ楽派の拠点であるサン・ペトローニオ大聖堂やアッカデミア・フィラルモニカ、ボローニャ大学の旧館であるアルキジンナジオなどに行き、昼食にいわゆるボロネーゼパスタを食べました。フィレンツェはあの有名なサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に行きましたが、洗礼堂や鐘楼は事前予約が必要で既に完売していて入れず…。
ローマは何とかその前の行程を圧縮して丸2日取りました。何といっても古代ローマとローマ・カトリックの本拠地。1日目はヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂とシスティーナ礼拝堂を含むヴァチカン美術館、ついでにトレビの泉やスペイン階段も見てきました。ヴァチカンはとにかく全てが他の教会を圧倒していますね。トレビの泉は現在近くに寄れないように規制されていて、無理やりコインを投げ入れようとしましたが入りませんでした…(笑)。2日目は古代ローマ遺跡巡り。コロッセオ、皇帝たちのフォルム、数々の神殿、浴場、競技場、少し歩けばすぐローマ遺跡に巡り合えます。大部分が破壊されていたりキリスト教化されていたりしますが、断片から往時の様子を想像して古代ローマの威光を感じ取りました。またパンテオンにはコレッリの墓があります。凄かった、ローマ。
次の日はナポリ近郊のポンペイを訪れました。紀元79年のヴェスヴィオ火山の噴火による火砕流で一瞬にして消滅都市となってしまい、その後18世紀中頃の発掘まで蛮族による破壊や風雨による劣化もなく保存されていた貴重な遺跡都市です。都市丸ごと1つ遺跡なので敷地は広大で、疲労と暑さと戦いながら主な見所を見学して回りました。噴火の前に地震もあったのでそれぞれの建物は完全というわけではありませんが、とにかく都市の区画は全く手つかず。建物内部の壁画は美術館に展示するため取り去られたものも多いですが、今もそのまま残っているものもあり、そろそろ約2000年経とうというのにとにかく色が鮮やか。それでも発掘から250年ほど経ち、多くの場所で劣化が進行しているそうです。亡くなった市民へ黙祷を捧げてからナポリに引き返し、卵城、王宮、サン・カルロ劇場、ヌオーヴォ城などを外観のみ見学。劇場は目下工事中でした。翌朝帰る前にナポリ大聖堂と考古学博物館にあるポンペイから運ばれた壁画コレクションを見て、全ての旅程は終了。博物館にあるといっても温度や湿度管理は全く行われておらず、ケースの中にあるわけでもなく手の届く位置にあります。これでは元あった場所にあるのと比べてそんなに劣化具合は変わらないのではないかと思いました。これからは適切な保存をお願いしたいですね。

次回は今週行われるオーケストラとヴァイオリンデュオの演奏会の模様をお伝えします。久しぶりに音楽ネタですね。

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