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「国王の24のヴィオロン」復元プロジェクト

29 5月 2019
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研究センター所属の弦楽器たち

日本ではもう真夏日になる地方もあるそうですね。こちらもようやく暖かくなってきましたが、まだ日によりけりです。
先週の活動は「国王の24のヴィオロン」復元プロジェクトによるリュリの「平和の田園詩」上演一色でした。

今回の演奏の様子はこちら

このプロジェクトは2008年からヴェルサイユバロック音楽研究センターが行なっています。現在ではヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった弦楽器はサイズが殆ど画一化されていますが、19世紀以前はそれ以外にも微妙なサイズの楽器がたくさんあり、特にヴィオラは担当する音域によって殆どヴァイオリンと変わらない小さなものから腕に収まりきらない大きなものまでサイズが豊富でした。17世紀フランス宮廷のオーケストラ「国王の24のヴィオロン」も例外ではなく、通常5声部からなるパートそれぞれが違うサイズの楽器で演奏されていました。即ち6挺のDessusと呼ばれるヴァイオリン、それぞれ4挺ずつのHaute-contre、Taille、Quinteと呼ばれるサイズの異なるヴィオラ、6挺のBasseと呼ばれるチェロよりも大きく調弦も一全音下に調弦される楽器です。これらの楽器のセットがパトリック・コーエン=アケニヌ氏と2人の楽器製作者によって製作され、プロジェクトの演奏に用いられています。製作の様子はこちらの動画をご覧ください。
今回私はDessusを担当しました。プロジェクトの最初に楽器の蔵出しが行われ、私もそこに同席させていただいてほとんどの楽器を試奏することができました。選んだのはPolidor(ポリドール)という楽器。今日一般的なヴァイオリンのサイズよりほんの僅かに小さいもので、私の楽器と比べたところ弦長はかすかに短い程度ですが箱が小ぶりです。他にもバルタザールやメルキオールといった名前が一台ずつ付けられています。見つけられませんでしたがカスパーもいるのでしょうか。エヴァンゲリオンのスーパーコンピューターではありませんよ(笑)。製作されてからまだ10年経っていない新作楽器ですが、1年に2、3回学生に使われるか使われないかでほとんどは楽器庫かショーケースにあるこれらの楽器、正直状態が良いとはあまり言えません。私のポリドール君も6台中最も調子が良かったものの蔵出しの際に弦や魂柱の位置を調整し、やっと演奏に耐えられるかなというレベルです。今後もっと演奏機会が増えれば状態も良くなるはず。
オーケストラの指揮はパトリックが行いアンサンブルのメンバーも数人演奏に参加していますが、殆どは周辺の音楽院の学生による演奏です。個々のレベルは…うーん、私が一年目にしてコンサートマスターを拝命するくらいです(笑)。研究センターの歌手のレベルが高いだけに、器楽の演奏レベルももう少し高めたいところ。ちなみに今回は24台全ての楽器を使っているわけではなく、人数比は4-3-3-3-4。
リハーサルは月曜日、火曜日、木曜日の3日間ほぼ一日中行われましたが、私含め日頃慣れない楽器でのアンサンブルなのでもう少し下慣らしの期間があれば良かったなと思います。金曜日には当時も演奏が行われ「平和の田園詩」の舞台になっているソーのオランジュリー(オレンジ温室)で演奏会が行われました。地域でも大々的に宣伝が行われていたようで、チケットは完売。縦長のオランジュリーの最後方まで設けられた客席は一杯になりました。
ちなみに「平和の田園詩」は、スペインとの大同盟戦争終結によるラティスボンの和約が1684年に締結されたことによる戦勝祝いとルイ14世賛美のための作品で、翌85年8月16日にルイ14世臨席の下、今回も演奏したソーの館のオランジュリーで上演されました。台本はあの有名な悲劇作家ラシーヌ。ちなみに現在あるオランジュリーは残念ながら後年になって建てられたもので、当時演奏されたオランジュリーではありません。それでも当時と同じ地で作品を上演できるのは感無量というところ。
満員の観客の熱気と、そもそものオランジュリーという室温が上がりやすい建物の構造もあって上演中は暑く、調弦を絶えず確認しなければならない本番でした。音を採るチェンバロも調律が崩れてくるので、コンサートマスターとして調弦を行う際は難しかったですね。
続いて日曜日にはオルセーの県立音楽院のホールで演奏、最後は来週末のヴェルサイユ大厩舎での演奏です。あの巨大な空間での演奏はどうなるのか、楽しみなところです。

次回はヴェルサイユ宮殿シリーズの続編、王妃のアパルトマンをご紹介します。