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ヴェルサイユ宮殿観光の手引き・庭園編①

22 7月 2020
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ラトーヌの泉水の上から大運河を望む

今週から罰金を伴うマスクの着用義務が「閉鎖された公共空間」にも拡大されました。美術館や教会、コンサートに行くにもマスクが必要ですね。それよりレストランの密集をなんとかした方が良いのではと思うのですが…。

さて今回は久しぶりのヴェルサイユ宮殿シリーズ、庭園編をお送りします。
まずここで言う「庭園」ですが、今回は城館から大運河の手前までに展開されている、いわゆる「小公園petit parc」を取り扱います。
ヴェルサイユの庭園はまだ宮殿が狩猟のための小さな館であったルイ13世の頃から存在していましたが、大規模な整備が行われたのはルイ14世の親政が始まった1660年代から、その治世の絶頂期となった1680年頃で、その後も増改築が繰り返され現代に至ります。設計は多くのフランス式庭園を手掛けたアンドレ・ル・ノートルで、太陽神アポロンを中心としたギリシャ・ローマ神話や自然、季節などの世界観を寓意として織り交ぜて、各部が有機的に結び付けられるような設計を行いました。
元々沼地であった土地を整備し、各所の噴水を稼働させるため遥か北を流れるセーヌ川に巨大な揚水装置「マルリーの機械」を設置、水道橋や貯水池などが整備されました。不毛な土地に大宮殿とそれに見合う庭園を造るという、自然を克服する事業にルイ14世は喜びを覚えていたようです。ただし結局全ての噴水を稼働させるだけの水は確保できず、見学者が通る時にだけ各所の噴水を稼働させていました。現在では機械の進歩により全てを稼働させることができますが、かなり費用が掛かるのか時間帯が限定されています。
詳しく書き始めると一冊本が出来上がってしまいそうなので詳しくは専門書に譲ることとして、今回は現代の庭園を観光するという視点で書いていきたいと思います。
どのように鑑賞するのも自由なのですが、よりこの庭園を楽しむためにはやはり施主であるルイ14世の意向を知っておくに越したことはないと思います。幸い彼自身が「ヴェルサイユ庭園鑑賞法」という書物を編纂していますので、国王お勧めの鑑賞ルートと見どころに沿ってご紹介していきます。
なお日本語翻訳につきましては、建築史学者、工学博士である中島智章氏が日本建築学会計画系論文集に寄稿されている『ルイ14世編「ヴェルサイユ庭園案内法」にみる庭園鑑賞法』を引用させていただきます。原典は1691-1695年頃に編纂された第3版です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/65/532/65_KJ00004223710/_article/-char/ja/
なお同氏は他の論文でも非常に詳しくヴェルサイユ宮殿や庭園について研究をなさっているので、興味があればそちらも是非お読みになる事をお勧めします。また『図説ヴェルサイユ宮殿
太陽王ルイ14世とブルボン王朝の建築遺産』(河出書房新社ふくろうの本、2008)も非常に詳しく、また分かりやすく解説されている本ですのでお勧めです。
それでは庭園鑑賞を始めましょう!

引用元:BnF Gallica, Plan général de Versailles , son parc, son Louvre,
ses jardins , ses fontaines, ses bosquets et sa ville / par N. de Fer
– 1700

1.「大理石の内庭からの玄関の間より城館を出でてテラスの上に至るよう。その壇上に足を止めて、水の花壇の様子と動物陳列室の泉を眺めるように。」
ここで言う「玄関の間」というのは鏡の回廊の下、今日の見学ルートではヴィクトワール王女、アデライード王女のアパルトマンに入る順路にあり、通常の見学コースではここから庭園に出ることはできません。従って城館の見学後であれば地下から上がる出口の階段を出て右に回り込み、城館と中央翼棟との接続部分をくぐり抜けて庭園に行きます。最初から庭園を目指す場合は城館の入口Bの左手を目指して行きましょう。夏期の庭園有料時には左手に切符売り場と検札所があります。音楽付き、噴水と音楽付きの日は城館とは別に入場料が必要です。検札を受けて入場した後、右に回り込んで城館の西側を目指しますが、こうすると必然的にオランジュリーの上や南の花壇を通るので、今日ではこちらを先に見学した方が良いかもしれません(後述します)。
さて順路通りにまずは城館の西側に面している一段高くなったところから左右の水花壇と奥の「動物陳列室の泉」を眺めます。動物陳列室と急に言われても何のことか分からないと思いますが、左右に動物の銅像が配置され木立に囲まれた泉があります。

2.「続いてラトーヌ(の階段)の上のところまで直進し、立ち止まってラトーヌ(の泉水)、とかげ(の泉水)、斜路、彫刻、国王の散策路、アポロン(の泉水)、大運河を眺め、さらに振り返って花壇と城館を見るように。」
水花壇に配置されたフランスの河川が擬人化されている銅像などを観察しつつ、水花壇の間を通り抜け階段のところから全景を眺めます。ラトーヌの泉水、国王の散歩道(緑の絨毯とも呼ばれる大運河の手前の部分)、アポロンの泉水から大運河まで傾斜のある地形になっていることにより、実際にはかなり距離があるのですが視覚的な効果によってそれらが近くにあるように、お互いが密接に関わっているように感じることができます。遠景だからこそ感じることのできる彫刻や植木、芝生の配置にも注目しましょう。

3.「左へ曲がって、スフィンクスの間を通り抜ける。歩いて行くと動物陳列室の前へ至り、そこで立ち止まって噴水の水柱と水面を眺めるように。スフィンクスに至ったところで立ち止まり、南の花壇を見よう。オランジュリーの上のところまでまっすぐ行って、そこからオレンジの花壇とスイス人の湖を見るように。」
この最初に書かれている「スフィンクス」はどう探しても見つけることができないので、後年取り除かれてしまったのでしょう。左手の「動物陳列室の泉」を詳しく観察します。ルイ14世は水柱と水面というばかりで彫刻については何も触れていませんが、右は「雄鹿を打ち倒す猟犬」、左が「熊を打ち倒す虎」です。
2つ目のスフィンクスは今日でも見つけることができ、検札所から1.のテラスに行く行程でおそらく通ると思います。愛の神が上に乗ったスフィンクスが一対置かれている階段の中心から左右の花壇、泉水を見ましょう。ボードゲームの駒のような三角形に剪定された植木が整然と配置された中に、幾何学模様を描いた背丈の低い植え込みがあり、季節が良ければその中の花も楽しむことができます。
オランジュリーの上から見下ろすと、自分が今までいた場所がいかに高台であったかが良く分かります。泉水を中心に美しい幾何学模様を描いた芝生が四方に配置され、夏期であれば周囲にオレンジやレモンなどの果樹が置かれています。奥には王の菜園のための貯水池であるスイス人の湖があり、その奥に彫像が置かれています。オランジュリーから見ると遠すぎて何だか良く分かりませんが、炎を馬で超えるメッティウス・クルティウスというローマの建国伝説に登場する勇者がデザインされています。私はこの彫像には毎日ジョギングでお目にかかっています。

4.「右へ曲がり、アポロンのブロンズ像とアンティノユスの間を抜け、進行方向に体を向けたまま立ち止まり、バッキュス(の泉水)とサテュルヌ(の泉水)を見よう。」
アポロンのブロンズ像とアンティノユスというのも今日では見つけることができません。オランジュリーの上から右に進むと階段があり、その端に壷の彫刻が置かれているのですがこの部分にあったのでしょうか?その先まで進むと、眼下に背丈の高い木立に囲まれた直線が見え、その線上にバッキュスの泉水とサテュルヌの泉水を一望することができます。ここは観光客はほぼ素通りしてしまうポイントですが、国王お勧めの場所だけあり結構美しい眺望ですよ。

5.「オランジュリーの右の斜路を下り、オレンジの庭園を抜け、泉の方へまっすぐに進み、そこからオランジュリーを眺めるように。大きなオレンジの木の中を通る園路を抜け、オランジュリーの屋内へ入り、迷宮の側に面した入り口から外へ出よう。」
百階段と呼ばれる階段を下り、ジュール・アルドゥアン=マンサールが設計したオランジュリーの建築を堪能します。幾何学模様を描く芝生、奥にある城館と共にこのオランジュリーを眺める構図は昔は絵画、現在ではよくポストカードの写真になる程に美しいです。通常はオランジュリーに入ることはできないのですが、いくつかの窓が換気のために開けられていることがよくあるのでそこから内部を観察することができるでしょう。階段の麓まで戻り、階段の左手側の地表面を進んで行くとルイ14世のLの字があしらわれた紋章が付いた大きな扉にたどり着きます。オランジュリーを通ったつもりになって、先へ進みましょう。なお、ここのあたりは傾斜地になっていて、百階段の側面を地表から見てみると傾斜に沿って斜めに石材を加工して建設されていることが分かります。

6.「迷宮へ入り、雌鴨と犬(の寓意群像)のところまで下りた後、また登っていってバッキュス(の泉水)の側から外へ出るように。」
ここはかつて有名であった木立で作られた迷路があり、ヴィオラ・ダ・ガンバの名手マラン・マレもこの迷宮を題材にして曲を作っていますが、残念ながら今日では完全に失われ、1775年にマリー・アントワネットが「王妃の木立」として作り変えてしまいました。木立が老朽化して維持が難しかったという理由もあるようですが、迷宮で遊んでみたかったですね。現在工事が行われていますが間もなく完了するそうです。全体図を見ると、道が入り組んでいて少し迷宮的な要素も残っているかもしれないと思いました。
バッキュスは酒の神で、秋には葡萄が収穫できワインが作られるのでよくバッキュスには葡萄が結び付けられます。ここでも例外なく葡萄があしらわれています。ということは、ここは「秋」を表す泉水だということですね。もちろん残り3つの季節もありますので、後で見ていきましょう。

7.「舞踏会場(の園)を見に行き、ひとめぐりしてから、中央へ行った後、ラトーヌの斜路の下へ出よう。」
映画「王は踊る」に登場し、フィクションながら映画「ヴェルサイユの宮廷庭師」の舞台になった有名な舞踏会場の園です。楕円形の空間の1/4は水が流れ落ちる階段状の泉水、残りの部分は階段状の植え込みにより構成されています。泉水は小石や貝殻を固めて作られているので、この場所は「ロカイユの木立」の名も持っています。高い水柱が上がるわけではありませんが、水が滝のように階段を流れ落ちる様子はまさに壮観です。ここで舞踏と演奏を鑑賞してみたいですね。

8.「ラトーヌ(の斜路)の下のところの眺望点をさしてまっすぐに進み、その途中、ボスケの一つにあるサティールの小泉を見るように。眺望点に着いたら、そこで立ち止まり、斜路、壷、彫刻、とかげ(の泉水)、ラトーヌ(の泉水)と城館を望み、その反対側に、国王の散策路、アポロン(の泉水)、大運河、ボスケの木立、フロール(の泉水)、サテュルヌ(の泉水)、右手にセレス(の泉水)、左手にバッキュス(の泉水)を眺めよう。」
このサティールの小泉というものが何なのか良く分かりません。1700年の地図を見てもこの導線上に泉らしきものは確認できないのです…。まあそれは良いとして、彼の言う「眺望点」に進んでみましょう。先ほど見たバッキュスの泉水と反対側にあるセレスの泉水を結ぶ横軸、ラトーヌの泉水と大運河の手前にあるアポロンの泉水を結ぶ縦軸が交差する点がその眺望点です。
まず城館側の景色から見ます。ラトーヌの泉水の主題になっているラトーヌはギリシャ神話に登場する最高神ジュピテルの愛人で、彼の正妻であるジュノンは彼女が妊娠したことに激怒し永久追放を宣告しました。彼女は逃避行の中でリュキアという国にたどり着き、喉の渇きに耐え兼ね池で水を飲もうとした時、農民たちがジュノンの命令に従い彼女の邪魔をしました。怒ったラトーヌはジュピテルに懇願し、彼らはカエルに変身してしまう呪いにかかりました。ヴェルサイユの泉水では中央に2人の子、アポロンとディアーヌを庇うラトーヌ、周囲にカエルに変えられた農民、あるいはまさに変身途中の農民が配置され、彼らは必死にラトーヌに水をかけようとしています。この泉水が意図するところは即ち、ルイ14世による絶対王政。ルイ14世の幼少から青年時代はまだ王権が弱く、有力貴族や民衆によるフロンドの乱が勃発し暴徒がルイ14世の寝室にまで侵入、結果パリを追われる事態にまでなりました。ルイ14世はこれが生涯トラウマだったようで、この泉水にも「逆らう者は容赦しない」という意図が込められています。
今度は大運河の方を見てみると、中央には国王の散策路と呼ばれる芝生とアポロンの泉水、その先に大運河が望めます。これは城館やラトーヌの泉水の上からでも見ることができるのですが、ここで特徴的なのは四季を表す泉水が同時に見られること。右斜め奥と左斜め奥にあるフロールの泉水、サテュルヌの泉水までもが細い道で繋がっていることによってこの一点から見ることができます。場所を調整しないとしっかり見ることができないので、よく探してみましょう。ただただル・ノートルの構想には脱帽するばかりです。

非常に文量が多くなったので、今回はここで区切ることにします。2回のつもりでしたがこれは3回になりそうですね…。


3度目の夏の暑さ対策

8 7月 2020
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夏は雲一つない快晴が連日続く

ヴェルサイユは気温はそこまで高くないものの相変わらず快晴の日が続いていますが、日本では豪雨が九州を襲っていますね。皆様のお住まいの地域は大丈夫でしょうか。以前から言われていたことですが、災害地域でのコロナ対策はどうなっていくのでしょう。
昨日は来月の初旬に演奏会が企画されている友人のアンサンブル「サン=ジョルジュ・コンソート」の打ち合わせで久しぶりにメンバーが集まって食事会をしたのですが、フランスのレストランやバーはソーシャル(フィジカル)ディスタンスも何もあったのもではありませんね。店内もテラスも人々がテーブルに密集して会話をしながら飲食をしていて、入り口に気休めの消毒ジェル(それもべたつきが尾を引くものが多い)が設置されている以外はロックダウン以前と何も変わりません。
公共交通機関では罰金が科せられるマスク着用義務化により皆仕方なく着用しているといった感じで、下顎のところにマスクをずらして大声で話している人なども多々見受けられます。こうなればもう、自分の身は自分で守るしかないですね。

さて今回はクーラーのない我が家での3度目の夏対策を紹介しましょう。
去年の6月末から7月中旬の一時帰国までがもう耐えられないほど暑く、それを教訓に今年は暑さ対策グッズをいくつか揃えてきました。
今年の装備品はこちら。
・冷風扇「ここひえ」
水が蒸発する際の気化熱を利用する小型の冷風扇。去年の夏にヴェルサイユへ帰ってきた時に導入しましたが、9月になりすぐに涼しくなったため今年から本格稼働です。水を蒸発させることにより湿度が高くなってしまうので日本ではあまり効果がないと言われることもありますが、フランスの夏は乾燥しているのであまり気になりません。それよりもとにかく冷風が欲しい!水タンクに氷や保冷剤を入れるとさらにパワーアップします。
・保冷剤
ケーキを購入する際などに貰える小さな保冷剤をいくつか持って来ました。冷風扇の水タンクに入れたり、タオルにくるんで体に当てたりします。
・バブシャワー
シャワーを浴びる際に体に付けて洗い流すと、冷感成分により入浴後に汗が早く引いて涼しくなる優れもの。ランクは勿論最高のエクストラクール、冷えすぎるので推奨されていませんが遠慮なく扇風機に当たります(笑)。フランスでも同様の商品があれば良いんですけどね、もしかしたらあるのでしょうか?

あとは以下のような工夫をしています。
・扇風機を室外に向けて稼働させる
夕方になると外が涼しくなるので、扇風機を窓の外へ向けて稼働させると室内の気圧が下がることにより冷たい外気を早く取り入れることができます。
・窓の一部にアルミホイルを貼る
私の部屋は最上階で日当たりが良く、放っておくとすぐに温室状態になります。ブラインドを閉めてもそれが日光で徐々に熱せられてしまうので、窓ガラスの一部にアルミホイルを貼ってみたところ良い効果が得られました。ガラスに影響があるかもしれないのでぴったり貼り合わせてはいません。
・とにかく水を多く飲む
水をたくさん飲んで排泄することにより体温を下げる、単純明快な方法。
・ウリ科の野菜やトマトを食べる
キュウリやメロン、スイカなどのウリ科の野菜、トマトには体温を下げる効果があるのでこれらを多く食べるようにします。
・シャーベットやアイスを食べる
凍ったものを体内に入れるので当然涼しくなりますが、糖分の摂り過ぎには注意ですね。

クーラーがなくても工夫次第で意外と夏を快適に過ごせるのかも知れません。日本に帰った後もあまりクーラーに頼らない夏の過ごし方を実践してみたいなと思っています。ただ日本の夏は蒸し暑いのが厄介ですね…。

次回は今週末から出演するヴェルサイユ宮殿の夜会の模様をお伝えします。


失われた3ヶ月と久しぶりのヴェルサイユ

24 6月 2020
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王妃もマスク着用でお買い物

不定期更新と言いながら自粛生活続きで大して書くこともなく、約3ヶ月が過ぎてしまいました。先週末にようやくヴェルサイユへ戻って参りました。
思い起こせば日本へ緊急帰国した直後にパリがロックダウンし、交通網が麻痺して空港へ行くことも困難になったと聞き及びますので、早く決断してよかったなと思いました。ロックダウン中のパリの様子はニュースで見ましたが、いざ帰ってきてみると電車やバスでは全員がマスクを着けているという、以前では考えられないような状況になっています。それもそのはず、今や公共交通機関でマスクを着用していなければ135€の罰金が科せられるのです。以前はマスクを着けているとあからさまに避けられたり、「お前はコロナに感染しているのか」と聞かれたりする(実際に一度聞かれました)ので肩身の狭い思いをしていましたが、これで大手を振ってマスクを着用できます。ただ着用が義務でない場所では彼らは相変わらず殆どマスクを着用せず、カフェやバーで以前と同じように密集して食事や飲酒を楽しんでいて、日曜日の夜などはバーの前で音楽を大音量でかけてロックフェス状態に…。人々の意識はそう簡単に変わらないということですね。あと屋外を出歩く際にはマスクが必要ないのは同意できるのですが、着用が義務付けられている時だけ形だけして後は取ってしまうとなると、頻繁にマスクの表面や顔を触ることになるのであまり意味がないのかなと思います。

今回は、この3ヶ月の私の動向と、その時考えたことを綴ってみたいと思います。
まず羽田空港に降り立って、入国手続きの中で日本の水際対策を実際に垣間見ましたが、率直に申しましてあまりに緩いなと思いました。当時は中国の湖北省を始め幾つかの省とイタリアからの渡航者しか制限を設けていなかったように記憶していますが、中国は中国全土、イタリアはEU全土を制限対象にしていないと全く意味がありません。陸路で別の制限対象域外に移動してそこから渡航して、制限域内にいたことは黙っていれば容易に入国できるということですからね。特に中国は武漢の都市封鎖の前に既に半分の住民が脱出していたと聞き及びますからなおさらです。インバウンド需要の落ち込みなど気にせず、もっと早く広域にわたって入国禁止措置をしていれば今のような結果は招かなかったと思います。日本は島国で空路か海路でなければ入国できず、EUのように他国に意思決定を左右されることがない。後になって今のように世界中の国々からの入国を禁止できたわけですから、もっと早くできなかった理由がないですよね。ただこれを追求する政治家やマスコミがほとんどいないのは、やはり日本は大きな闇を抱えているという他ありません。
あと、帰国してくる邦人に対しても2週間の「自己隔離要請」しかできないなど何ともおかしな話です。空港や港の周辺の宿泊施設を借り上げて2週間そこに滞在してもらうくらいのことはやろうと思えばできるはずですが、未だにそのようなことはありません。そして「要請」は強制力がないので拒否されればどうにも手出しができない。この問題の根源は要するに、憲法に行き着くわけです。
そんなことを考えながら2週間、自分がもし感染していたら両親に移してしまうとやや不安に思いながら自宅に引きこもって過ごしているとまあ、早々に自粛生活に嫌気がさしてきたんですね。まだ緊急事態宣言が出ていない最中、もう感染爆発のピークは過ぎたのではないかという情報を聞いたこともあって、家族3人で熱海の温泉へ車で出かけました。ちょうど桜が咲いて皆心が緩んだのか、皆同じことを考えたようで道中の神社などは結構な人出でした。1泊2日で少し遠出するだけでかなり気が晴れましたが、間もなく緊急事態宣言が発出されると「あれはまずかったかも」と両親と話していました。緊急事態宣言の発出も遅かったですよね。
4月に入ると欧米主要国での感染が非常に拡大し、フランスへ帰る見込みは全く立たなくなりました。4月の初旬に適当に予約していた飛行機は欠航になり、バウチャーが発行される…はずが現在に至ってもまだ発行されません。航空業界も相当混乱しているのでしょう。4月に予定されていた、ヴェルサイユ・バロック音楽研究センターとパリ地方音楽院の合同開催によるマラン・マレのオペラ上演計画も流れ、ひたすら自宅に籠って練習をする毎日。両親ともに在宅勤務となり、こんなに長い時間家族揃って過ごしたのは史上初だろうなと話していました。食材は週1回の買い物と生協の配達で済ませ、一週間分の献立を主に私が考えていました(作るのは母ですが)。自粛をせずに遊びほうけている人たちがテレビで紹介される中、我が家は表彰されても良いくらいの自粛生活でしたよ。
そんな中、両親はテレビ好きなので我が家ではテレビニュースを頻繁に目にしたのですが、改めて見てみると想像以上に日本のメディアは酷いですね(日本のメディアについては依然記事を書きましたのでそちらをご覧ください)。色々ありましたが特に酷かったのは一時期話題になった検察庁法改正案の件。大量のスパムツイートによって人為的なトレンドを起こし、芸能人やマスコミを使ってありもしないストーリーを捏造して喧伝した結果、ついに政治を動かしてしまう。一体これらの背後にいる黒幕は誰だったのでしょうか。まあ政治を動かすといっても、結果的に公務員の定年延長引き上げそのものが丸ごと廃案になってしまい、これに反対していた野党は支持母体である公務員の労働組合から猛反発を受けてこの件はすっかり鳴りを潜めてしまいましたね。
メディアや政治の話題はこれくらいにして、この期間中パトリックにオンラインレッスンをお願いしました。まず動画を撮って送り、WhatsAppというアプリでビデオ通話しながら受講しました。少しだけ繋がりにくい時もありましたが、概ね快適にやり取りできましたね。背後のキャットタワーにわが家の猫が映り込んだりもしました(笑)。
自粛生活の最中、ずっとヴァイオリンを弾いているわけでもないので余暇の時間も色々と工夫しました。家族で映画やお笑い番組を観たりすることも多々あったのですが、両親が仕事をしている時間はそういうわけにも行かず、蒸気機関車のペーパークラフトを作ることにしました。Canon社が無償提供しているコンテンツで、これがかなり充実しています。色々悩んだ挙句日本の代表的な蒸気機関車の一つであるC57形を作ることにしました。ただ仕様通りに素組みするのも何かつまらないので、自分で違う機体をプロトタイプに選んでナンバープレートや追加の部品を作ったりして色々楽しかったのですが、そこに時間をかけ過ぎてまだボイラーと機関室周辺しか完成していません。かなり精巧で部品が多いペーパークラフトなので、帰国したらまた地道に仕上げていきたいなと思っています。
6月になって、7月から出演予定のヴェルサイユ宮殿の夜会が迫ってきて、2週間の自己隔離期間を考えるとそろそろヴェルサイユへ帰ることを考えなくてはならなくなりました。フランスの感染状況は日本と比べて依然として厳しいのですが、何せ仕事ですし念願であった鏡の回廊での演奏なので、絶対に参加できるように日程を逆算して先週金曜日の飛行機を予約。結果的に当番は7月の2週目からになりましたが、事前のリハーサルが今週に設定されたので丁度良い日程になりました。
成田空港についてみると、東京国際空港とは名ばかりに閑古鳥が鳴いていました。それもそのはず、出発便は合計で8本しかなかったのです!乗ったのはエールフランスの直行便でしたが、無事に出発出来て良かったなと思いました。ところで現在、フランスへ入国する際にはコロナウィルスの症状がない旨の宣誓書と第三国からの移動証明書の2通を作成する必要があるのですが、日本でのチェックインの際に一度確認されただけで、肝心のフランスでは結局要求されずに入国してしまいました。なんて緩いのでしょう…。日本旅券だったからなのでしょうか。
無事にヴェルサイユの自宅に着き、翌朝から3か月不在だった部屋の大掃除と片付けをしました。家を出たのは3月でしたから、まだ羽毛布団やホットカーペットが出ていて時の流れを感じましたね。
一昨日はヴェルサイユ宮殿の夜会に向けてのリハーサルがありました。全てJ.-P.ラモーの曲によるプログラムで、最初に音楽院で軽く合わせがあった後にいよいよ鏡の回廊でダンサーたちと合わせました。18世紀風の衣装の試着もあり、他のメンバーはリハーサル前に脱いでしまいましたが私は嬉しくてリハーサル中もそのまま着て弾きました(笑)。夜会の詳細についてはまた7月に触れますね。

次回は今週末に受ける、オディール・エドゥアール女史のマスタークラスの模様をお伝えしたいと思います。


パトリックのオーケストラプロジェクト…中止、そして逃亡

18 3月 2020
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まずは先週行われていたパトリック主宰のオーケストラ「レ・フォリー・フランセーズLes folies françoises」のリハーサルの模様をお伝えします。

今回の公演はモナコ、オルレアンを回り、ルベルのバレ「元素」、ルクレールのヴァイオリン協奏曲によるバロックプログラムとヤン・マレシュYan Mareszの新作「衝動Tendances」の演奏が行われる予定でした。

ルベルの「元素」はずっと演奏してみたかった曲で、第一曲「カオス」でトーン・クラスター(2度音程を密集させた強烈な不協和音)に近い和音を使用するというセンセーショナルな作品です。私はこの曲のみオート・コントルのヴィオラを担当しましたが、弾いている方は自分の音が大きく聞こえるので意外とえぐみは感じないものなんですよ。ヴァイオリンの「火」を表す目まぐるしいパッセージは弾いていてとても楽しそうでした。

ルクレールの協奏曲は昨年ノルマンディーのオーケストラで弾いていたものと同じ曲で、勝手知ったるで弾くことができました。

問題はマレシュの新作。オーケストラパートの楽譜はあまり複雑ではないのですが、モダン・ヴァイオリンのソロパートは大変難しく、ソリストのカン・ヘスンはとてもよく弾きこなしていましたが何せオーケストラとのすり合わせが難しかったです。あと初日からマレシュがリハーサルに来ていて、強弱やニュアンスを現物合わせで細かく指示していたので、それにも時間をかけなければなりませんでした。全体は10のセクションに分かれていて、最後のセクションは弦楽器が16部音符を刻み、アクセントで分ける音のグループが2から8まで順に増減する仕掛け。5と7が難しくてみんな練習していましたね。

さて、初リハーサルが終わった木曜日の夜、マクロン大統領がテレビ演説を行いフランス全土の学校の閉鎖、移動や集会の自粛要請を発表しました。演奏会は当然集会にあたるため、翌日のリハーサルではおそらくオルレアン公演は中止になるだろうという話がなされましたが、モナコはフランスではないのでどうなるかまだ分かりませんでした。しかし翌土曜日朝にはモナコ公演の中止連絡を確認し、その他3月に予定されていた予定も全てなくなったことで、直ちに日本へ逃げることにしました。2週間以上予定もなく小さい自室にいるのは辛いことに加え、彼らは基本的にマスクをしていないこと、公衆衛生のレベルが日本に比べて低いこと、この期に及んでも彼らはバーで夜遅くまで飲んで騒いでいる(声が深夜まで聞こえていた)ことなどを考えると、さらに感染は加速するだろうと思ったためです。当日夜の航空券を即予約、往復券ですが現在KLMオランダ航空(エールフランスの共同経営社)では予約変更手数料が特別免除となっているのでとりあえず4月頭の便を適当に予約。突然の予約でしたが片道472€と特別高いわけではありませんでした。
そそくさと荷造りをし、フランスを脱出。夜だからなのかこの状況だからなのか、シャルル・ド・ゴール空港はまさにもぬけの殻…。機内は空席が割とありましたね。
日曜日の夜に日本に着きましたが、その後フランスでは商店の閉鎖、逐一証明書が必要となる外出制限、EUはシェンゲン圏境封鎖(一部加盟国は国境封鎖)、そして今日には日本政府がフランスを含むヨーロッパ各国他の日本人を含む入国者の14日間の隔離措置を21日から行うことを発表しました。今思えば躊躇なく帰ってきて本当に良かったなと思っています。
突然の帰国なので特に予定もありませんが、日本にも感染リスクがないわけではないので基本的には家で読書などしていようかなと思っています。両親もほとんどの日がテレワークになっていて、久しぶりの一家団欒の日々です。

今回はオーケストラプロジェクトと日本への逃亡の話でした。帰国時期は未定ですので、それまでは不定期更新とさせていただきます。


フランスの新型コロナウィルス感染と対策グッズ他の販売状況

11 3月 2020
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ほとんどの薬局には入り口に「マスクと消毒液の在庫はありません」という張り紙が出されています

今回も新型コロナウィルスの話題になりますが、フランスではこの数日で急速に感染が拡大しており、私が確認した最新情報では前日から300人ほど増えて1784人、33人死亡となっています。首都圏ではまだ集団感染は報告されていないようですが、その他の県ではいくつか確認され、そうしたところでは幼稚園から高校までの閉鎖措置が取られています。また1000人以上の集会は禁止されています。今月参加するパトリックのオーケストラプロジェクトや予約しているヴェルサイユのスペクタクルもどうなることやら…。
また先ほど入った情報によると、ヴェルサイユ地方音楽院の教師1人の感染が確認され、一緒に活動していた生徒数人も隔離対象になったとのことです。幸い私が普段活動していていない校舎での出来事だったようですが、来週予定されていた校内演奏会は中止になり、学生生活にも影響が波及し始めています。
さてそんな中、フランスでの感染対策グッズ他の販売状況などはどうなっているのか、昨日いろいろな薬局とスーパーマーケットを回って調べてきました。
まず世界的に不足しているマスクですが、フランスでは先週、医療用マスク(FFP2タイプ)の国内の在庫、5月末までの生産分を全て政府が管理し、医療機関と罹患者へ供給することを発表しました。購入するには処方箋が必要とのことで、予防のために購入することはできなくなりました。私がAmazonで注文したマスクもおそらく当分届くことはないでしょう…。またこれによりマスク着用者=罹患者という公式がほぼ確実なものになるので、残り少ない手持ちのマスクも着用して出歩くのは一層困難になりそうです。日本と同じように高額転売の案件もあるようで、逮捕者もでているとのこと。Amazonには怪しげな商品もありますが、中国系の業者だと使用済みのものかもしれないのでやめておくことにしています。
そもそもフランスでは公式見解として「マスクは感染予防には効果がない」とされています。需要に対して供給力が圧倒的に少なく、手に入らないことでパニックを起こさないようにする意図があるのかもしれませんが、ないわけはないと思ってしまいますね…。
次にアルコール消毒液ですが、こちらは徴集はされていないものの政府によって販売価格が設定されており高額販売できないようになっています。しかしいずれの薬局、スーパーでも品切れで、あるのは赤ちゃんの体を拭くためのスプレーくらいでした。先ごろ各薬局で調合した消毒液を発売できるよう法令が出されたそうなので、これから少しずつ供給がなされていくと思います。また代用品として日本でも注目されている次亜塩素酸ナトリウムの漂白剤(ジャヴェル水)はまだまだあるようなので、手持ちの消毒液がなくなったら購入を考えてみます。
医療用というわけではありませんが、ゴム手袋はスーパーに在庫があったので10セット入りを1つ買っておきました。
あとデマにより世界各国で品薄になりつつあるトイレットペーパー他の紙製品は、全てのスーパーに山ほど在庫があり、セールをしているくらいでした。フランスは大丈夫なのか、あるいはこれから無くなるのでしょうか。

隣国イタリアでは感染者が1万人を突破し中国に次ぐ世界第2位になり、オーストリアとスロベニアは国境を封鎖しました。マクロン大統領はこれについて「誤った判断だ」としていますが、さてこれからどうなるでしょうか。残念ながらフランスは世界第5位の感染者数となっています。

次回は今週から始まるパトリックのオーケストラプロジェクトについて書こうと思います。


新型コロナウィルス感染拡大とアジア人差別

4 3月 2020
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フランスでも新型コロナウィルス感染が広がっています。最新発表で212例、先週には感染経路が不明なフランス人60代男性教諭が残念ながら死亡しました。保健省はオワーズ、アヌシーなどいくつかの地域で集団感染が起きていると発表しています。ルーヴル美術館は職員たちが感染リスクを恐れて出勤を拒否したことで休館になりました。
まあこれだけマスクをしないで挨拶をするたび抱き合ったりビズしたりしているわけですから感染が広がるのは時間の問題だと思っていましたが、この期に及んでもマスクをしている人はほとんど見かけません。先週、所用で空港まで行ったのですが、空港関係者でさえほとんどマスクをしていませんでした。中国を始めいくつかの国からの渡航者の「監視を強化する」だけで制限が何も行われていない中、防疫は一体どうなっているのでしょう。
ヴェルサイユ宮殿周辺では中国の団体旅行が禁止されているため観光客は少なくなっていますが、気になるのはそれを差し引いてもマスクをしているアジア人が数週間前と比べて減った印象を持つこと。マスク不足によるものなのかもしれませんが、ウィルス感染者と思われることを恐れて敢えてしていない人もいるのかなと思いました。
先日の記事にも書きましたが、フランスでは「マスクを着用している人=何かの重症者」というイメージが定着しているようで、実際に出歩いてみるとやはり少し人が遠ざかったり、電車に乗ったら席を譲られたりします。2月あたりから新型コロナウィルスの警戒感が広まり、一回メトロに乗った時めちゃくちゃな英語で「お前はコロナウィルスか」と聞かれたことがありました(笑)。
こういったことは別に無視していればそれでいいのですが、やはりそういった反応をされると少し嫌なので電車に乗るときには何となく座席に座りに行くのを躊躇ったりしてしまいます。あるいはマスクを取ってしまうか。
ただ、こう感染が広まってくるとたとえマスクをしていなくてもいずれはこういった反応をされてしまうのではないかと思っています。私はまだ経験がありませんが、既にこういった事に遭っているという話もちらほら聞きます。「日本人だから大丈夫」と言えば良いと最初のころは思っていましたが、今や日本も汚染国として認識され始めてきているのでもうそういうことも言えません。そもそも彼らは私たちアジア人を日本人、中国人、韓国人…というように区別できないので、アジア人=人口が圧倒的に多い中国人と思ってしまうのは仕方ないことかもしれません。ただ、大元の原因は未だに西欧社会に残っている黄色人種に対する差別であると思っています。
1月26日、「クリエ・ピカールCourrier picard」紙のトップに「ALERTE JAUNE(黄色の警報)」という差別的な見出しで新型コロナウィルスの記事が掲載されたことで批判が殺到し、すぐに謝罪に追い込まれました。その後SNS上で「私はウィルスじゃない」というハッシュタグが広がりました。
素晴らしい先人たちの努力のおかげで第二次世界大戦後は白人至上主義がかなり薄らいできましたが、それでもやはり完全には無くならないもの。こうした非常時には見える形で出てくるのだろうと思います。
今後感染がさらに広がっていく中で、白人も感染している可能性が高いからもうあまり関係がなくなってくるか、ウィルスを持ち込んだ人々ということでさらに厳しい目で見られるか。少なくとも、日常の活動に影響が出なければ良いなと思います。
あと、感染者が増えることでこれ以上海外で日本や日本人の評価が下がりませんように!政府や国民一人一人の良い対応に期待しています。

次回は引き続き新型コロナウィルスに関連して、フランスでのマスク他感染症対策グッズの販売状況をお伝えしたいと思います。