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王室礼拝堂での協奏曲演奏

13 2月 2019
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研究センター発行のプログラム。ソリストとしてしっかり名前が載りました

先週の私の演奏の一部をTwitterにアップしたところ、思いがけず多くの方から反響をいただきました。こうしてすぐに日本の皆さまに様子を伝えられ、また反響をいただくことができるのは現代のネットワーク社会の良いところですね。
年明けから本格的に練習を重ね、先週月曜日からのリハーサルに臨みました。編成は各2人ずつで機動性は良いのですが、何分学生なのでうまくいかないところもあるにはありました。でもコンサートマスターには師匠パトリックがついていてくれ、リハーサルも彼と共に進められたので心強かったです。フランス語を始めて久しいとはいえまだ居住し始めて半年、音楽の専門用語のボキャブラリーも思うように増えず、1人でリハーサルを進めるのは非常に困難なところがありますので…。
リハーサルは月曜日と火曜日だけでした。もう1つのプログラムであるヴィヴァルディの「ほめ讃えよ、主の子らよLaudate pueri Dominum」と並行しながらであったので、私のルクレールに割く時間は2時間ずつしかありませんでした。ルクレールの協奏曲は複雑な構造をしていてなかなか一筋縄ではいかないので、もう1日あったらいろいろなところが詰められたかなと思います。
さて、そうして当日。ヴェルサイユバロック音楽研究センターで1時間半軽くリハーサルをしてから、王室礼拝堂へ移動。前回「優雅なインド」の公演で1度木曜演奏会を経験したので、勝手が分かっていたのは良かったです。
リハーサルでは、前回のように会場の雰囲気に負けるのではないかと心配しながらソロを弾き始めたのですが、今回は全くそんなことはなくむしろ会場に助けられているようでした。この空間に対する変な身構えを払拭できたからでしょうか。純粋に楽器と会場と一体になって音楽をすることの楽しみを感じることができる、そんな空間でした。楽器配置等の微調整もわずかで事足りました。
それでも内心は気負っていたのか、厄介なことに手汗が止まらずガット弦にはあまり良くない状況に陥っていました。研究センターでのリハーサル時に察知していたので一度帰宅して制汗剤を塗りましたが、あまり効果は出ず。特に暑かったり湿度が高かったりということではなかったので、精神的な問題ですね。元々本番になると汗をかきやすいので、今後対策を考えてみたいと思います。
本番はオルガンの前奏に始まり、祭壇への入場はせっかくなのでソリストらしくオケの調弦の後に入る手法を取らせていただきました笑。この日も後方の席まで埋まる盛況ぶりで緊張をするかと思いましたが、本番もやはり会場に助けられている感じでリラックスして弾くことができました。こんな精神状態で弾けるのは中学生以来、いや小学生以来かもしれません。ルイ14世最晩年の1710年に竣工してから現在まで、ルクレールはもちろんのこと様々な音楽家が活躍してきたこの空間で自分は小さな存在であることを否応なく肯定し、それでもその全てを尽くして音楽をこの空間と古の人々に捧げること。こうした謙虚な気持ちが変な緊張を解きほぐし、古の音楽家の魂で全身が満たされていくように感じました。
こうして精神状態は抜群に良好なまま最後まで弾き終えることができましたが、残念ながら時折難しいパッセージを弾くにあたっては技術的な問題から思考の多くを左手に傾けざるを得ず、結果的に守りに入ってしまったり、失敗してしまう部分が残りました。今回は準備期間が十分にあり練習時間も今までにないほど多く取ったので、これは今の自分の限界だなと素直に思いました。パトリック曰く「左手の問題は練習で全て解決し、本番の時は右手のことのみを考えて左手は自動で動かなくてはいけない」とのこと。ただ難しいパッセージの練習を怠っていたわけではないので、問題はもっと根本的な基本技術にあります。昨年にこの曲を弾いた藝大の修了演奏会でも基本技術の限界を感じたのでその後試行錯誤を繰り返していますが、まだまだ完全ではないということですね。
終演後はご来場下さった多くの知人だけでなく、初対面のマダムやムッシュにも温かい声をかけていただきました。そうこうしているうちにiphoneの録画を仕掛けていた2階が施錠されてしまい、危うく回収不能に陥りそうになってしまったのがこの演奏会のオチです笑。
こうして王室礼拝堂で弾くという貴重な機会は多くの収穫をもって終わりました。今後も精進していきたいと思います。

次回はパリのメトロについて書いてみたいと思います。少し毎週のネタが尽きそうなので、何かリクエストがありましたらお寄せください。

ヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会

17 1月 2019
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ゲネプロ直前の王室礼拝堂祭壇付近

このところは少し青空が見えるヴェルサイユです。いつも曇ってばかりだと少し晴れ間が見えただけでとても嬉しいものですね。
先週から以前リハーサルしていたラモーの「優雅なインド」の本番が始まりました。1回目は王室礼拝堂、2回目はシリー・マザランにあるとある小さな教会、今週末はオルセー県立音楽院の音楽堂です。1回目は割と良かったのですが2回目はずれたり色々な事故がありました…有り難い事に第1ヴァイオリンのトップをやっているので何かあった時は対処せねばならないのですが、一人の力ではどうにもならない事もあります。
先週の土曜日はパリ国立高等音楽院の教育学の授業に縁あって参加してきました。国立の学生が先生の前で生徒役にレッスンをして、それに後から先生がコメントするという授業で、私は生徒役。同じ年代の、レベルが同じ人にレッスンを受けるのはなかなか新鮮でした。

さて、今回は前述の「優雅なインド」で初めて参加した、ヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会Les jeudis musicauxについて書きたいと思います。
今期は昨年の11月から今年の6月までの24回、木曜演奏会が予定されています。ヴェルサイユバロック音楽研究センターが主催している演奏会で、センターの歌手だけでなくパリ国立高等音楽院のオルガン学生や周辺の地方・県立音楽院の学生も演奏に参加しています。場所はヴェルサイユ宮殿の王室礼拝堂で、演奏謝礼は出ませんがあの空間で弾けるということはとても光栄ですし良い勉強になります。
お客の方も入場料は無料で、予約は不要ですが先日もほとんど満席でしたので、行く場合は少し早めに行った方が良さそうです。客層は年齢層が高めで、偶然居合わせた観光客もいるでしょうがやはりヴェルサイユ市民が多いのではないでしょうか。こうして学生が地域貢献できるところが、ヴェルサイユの良いところです。
さて、当日はセンターで1時間半ほどリハーサルをした後、みんなで徒歩で移動してゲネプロとなりました。私は寄り道して着替えてきました笑。宮殿が目の前に迫ってくるにつれ、とても引き締まる気持ちになりました。ルイ14世の時代から、一体何人の音楽家が同じ道のりを歩んだ事でしょう。自慢の作品を携えて来た者、誰にも負けない演奏技術を披露しに来た者、そして父親に連れられてきた8歳の神童モーツァルト…。全ての者がきっと、こんな気持ちになったに違いありません。いや、彼らの時代は国王がいたわけですから私とは比べ物にならないか。そんなことを考えながら、門に向かって歩いて行きました。
ゲネプロは16時からでしたので、宮殿内にはまだ観光客がいました。演奏会がある時以外は礼拝堂の入り口に柵が置かれているのですが、楽器を持った私を見ると横にいたスタッフが柵をずらしてくれました。うーん、関係者として入れるのって嬉しいですね!
そのまま左手奥まで進むと下に降りる階段があって楽屋があります。礼拝堂は暖房が効いていますが楽屋との間の階段はとても寒かったです。楽屋は小さい部屋が一つと台所が付いた部屋が一つ、男女一つずつの少し広い部屋があるだけでした。昔はここはどう使われていたのでしょうか。壁には修復工事の図面が貼ってあり、工事の会議もここでやっているようです。
そうそう、書いていませんでしたが現在王室礼拝堂は修復工事中で、外壁はすっかり足場を隠す大きな壁で覆われています。その壁にはよくあるように写真が使われていてただの壁ではないのですが、それにはなぜか内装の写真が使われています…。こういうのは外装の写真を使ってなるべく見た目にも遜色ないようにするのではないのでしょうか。均整の取れた宮殿で一際目立つ礼拝堂なだけに、この外装は大きく景観を損なっている気がしてなりません。早く修復が終わってほしいものです。内部はあまり工事しているのが気にならないようになっていますが、上部にあるいくつかの窓は木版で塞がれています。
リハーサルを始めてしばらくの間、工事の音が続いていました。なんだかとてもシュールな現場で、師匠で指揮のパトリックも嫌な顔をしていましたが作業終了時間までどうにもならなかったようです。
祭壇の前の床は色の付いた大理石により美しく装飾されていて、さながら南仏で見たローマ劇場の舞台のようです。2階部分にも巨大な円柱が使われていますし、他の大聖堂や教会にはない華麗さがこの礼拝堂にはあります。
音を出してみると確かに響くのですが、先日行った演奏会で感じたようにやはり音が散っていく感じがします。そのせいなのかどうなのか、巨大な空間の中で自分がとても小さな存在のように感じられました。今日はただ一ヴァイオリン奏者のはずなのに、場所に威圧されるというか、雰囲気に飲まれるというか…ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂ということで意識しすぎなのかもしれません。来月ルクレールの協奏曲を弾く前に一度弾けて良かったです。
本番はパトリックの短い挨拶があった後、まずはオルガン演奏でスタート。優雅なインドの序曲をオルガンで聴くという滅多にない機会。でもやっぱりオーケストラでしょ!という事でもう一度序曲から、オーケストラ演奏がスタート。
進行していくと、途中でパトリックがタンブーランを忘れたまま進行してしまうというハプニングが発生。彼はお辞儀をして奥に引き上げて行ってしまったので、空気を読んで次の曲はどうするのか聞きに行くと、「心配しないで!」という事でした。彼も多分途中で気がついたのでしょう。これは最後にアンコールとして加えることで見事に解決、ついでに有名な「未開人のエール」ももう一度演奏して観客は大盛り上がりでした。
演奏はまずまずの出来で、無事にヴェルサイユ宮殿デビューを終えることができました。次は鏡の回廊デビューを狙いたい!
ちなみにこの演奏会はぴったり1時間と決められているらしく、1曲アンコールしたものの進行はとてもスムーズでした。観覧時間はもう終わっているので、ヴェルサイユ宮殿自体を閉めるためだと思います。
帰りはいつもの通り、徒歩数分で自宅に着きます。本当に良いところに住んだなと、しみじみ思いました。

今回はヴェルサイユ宮殿の木曜演奏会についてお伝えしました。次回は私の通う、ヴェルサイユ地方音楽院について書いてみたいと思います。

イヤーな「カビ」の話

5 12月 2018
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取り寄せたカビとり剤

相変わらず雨ばかりのヴェルサイユ。地面が乾いている日の方が少ないほどです。ここ数日は少し暖かいので霧はあまり出ませんが、何となくすっきりしない空模様がずっと続く様は、18世紀と変わらないのでしょうか。
前回も少し書きましたが、ヴェルサイユは元来湿地帯で、宮殿の造営が行われる前は一面泥だらけで草の悪臭が漂う土地でした。それを全て干拓し、あの壮麗な宮殿と庭園を造ったのです。ただ土地は変わっても、それを取り巻く気候はあまり変わってないのでしょう。

先週末には10月からリハーサルが行われていた「クープランを讃えるラヴェル」の演奏会がヴェルサイユにほど近いヴィロフレーの小さなホールで行われました。図書館に併設されているホールで、残響はあまりないので古楽には少し厳しい現場ではありましたが、とても楽しめた本番でした。ラヴェルのいわゆる『クープランの墓』の楽章間にクープランの『王宮のコンセール』と『リュリ賛』を演奏するという趣向で、モダン科との交流も持つことができました。ちなみに『リュリ賛』ではフランス人を差し置いてリュリ役をさせていただきました笑。
日曜日にはヴェルサイユ宮殿内にある王室歌劇場でシャルパンティエの《アクテオン》とラモーの《ピグマリオン》を観に行きました。演奏はターフェルムジーク・バロックオーケストラ。比較的小編成ながらしっかりとした低音に支えられた響きは聴いていてとても安心感があり、舞台演出も見事でとても楽しかったです。
昨日は王室礼拝堂でジョルディ・サヴァール率いるアンサンブルの、クープランの「諸国の人々」全曲演奏会がありました。各人名演奏をしていましたが、一番安い後方の席だったので如何せん遠くて細部がよく聞こえない…。おそらく王室礼拝堂は身廊と側廊の2階部分の間を遮るものが円柱しかないため、音が散りやすいのだと思います。しかもクープランのような室内楽にはそもそもあの巨大な空間はあまり適しているとは言えない。今度からは高くても前方の席を買おうと思いました。

さて、今回はそんな充実した毎日に密かに我が家へ棲み着いていた、イヤーなカビの話です。
11月に入り、何だか洗濯物が中々乾かなくなったなと思っていた頃、彼らは少しずつ仲間を増やして、遂に目に見えて居間の壁に進出してきました。元々シャワールームのカビには悩まされていたのでカビ取り剤を探していたのですが、MONOPRIXの店頭をいくら探してもない。仕方なくアルコールスプレーで様子を見ようと一度拭いたのですが、一週間経つとまた生え始めました。どうやら壁と密着しているクローゼットの裏側の奴らを退治しないといけないようです。
MONOPRIXのインターネットサイトから購入できる薬剤を店頭取り寄せにして待つこと2日。ヴェルサイユ店へ受け取りついでに買い物に行ったら、数日前までなかったコーナーに取り寄せたのと同じカビ取り剤が売られているではありませんか。もう少し早く出してくれ!取り寄せ料の2€を完全に損しました。まあ仕方ないですね。ちなみに私が取り寄せたからついでに売り始めたわけでは…ないと思います笑。
取り寄せたものとは別のブランドも売られていたので、比較のために購入。「おのれ奴らめ、一斉摘発してやる」と息まいて帰宅し、早速退治スタートです。しかしこれは長い戦いの始まりでした…。
薬剤を撒く前にまず一体となって固定されているクローゼットと棚のネジを外して解体し、手前に引き出す。すると悪の巣窟が姿を現しました。緑色のカビが蔓延り、彼らが吐き出す湿気で壁が濡れています。クローゼットの裏側の板は薄い合板なので濡れて湾曲していました。奴らを白日の下に晒したところでまずはアルコール除菌シートで拭き取ります。マスクをしていましたが、何とも言えない凄まじいカビの臭いが辺りに充満しました。ちなみにカビはクローゼットの裏板を通り越して中にも進出し始めていたので、あと数日遅ければ洋服にカビが移るところでした。危ない危ない。
拭き取りで大方のカビは無くなりましたが、根元から抹殺するためいよいよ薬剤を投入します。まずは写真左のブランドから。さらさらとした液体で、吹き付けるとすぐに流れ落ちてしまいます。キッチンペーパーを当てて様子を見ることにしました。一方、離れた壁面で右のブランドも試すと、こちらは少し泡状になって出てくるので少し滞留時間が長いです。これをビニール手袋をした手で伸ばしていくと作業が早く進みそうだったので、こちらのブランドを主力に採用することにしました。ちなみに両者とも、カビの取れ具合に差は感じられませんでした。
壁面一体を薬剤で覆いつくすと、今度は塩素の臭いが部屋に充満します。そういう薬剤なので当たり前なのですが、扇風機を最大出力で稼働させてもなかなか窓から空気が出て行ってくれません。しかもこの日も雨が降っていたのであまり窓を全開にするわけにもいかず…。次第に頭痛に襲われながらも、なんとか居間のすべての箇所に薬剤を撒き終わりました。本来は水で洗い流さないといけないのですが、居間なので地道に濡れ雑巾で拭き取ることに。バケツでこまめに雑巾を洗いながら作業を進めていくと、水がペンキの白色になってきてしまいました。やれ、薬剤がペンキを溶かしたか。あまり拭きすぎると何が起こるかわからないので、3周でやめておきました。
作業開始から4時間あまり、部屋の中は棚とクローゼットから出した物で散乱し座ることもできないまま、何とか終了。奴らの残骸は完全に無くなり、「兵どもが夢のあと」となりました。クローゼットと棚は少し壁から離して再設置。棚の板は壁にぴったりの寸法で切り出されていたので、解体と再設置には苦労しました。
とりあえず夕飯を食べに外に出ようとヴェルサイユ・リーヴゴーシュ駅前のマクドに行って、帰ってきてみたら塩素の臭いが全然抜けていない。頭痛と鼻炎が割と酷くなってきたので、気分転換を兼ね夜のヴェルサイユをあちらこちらと散歩。何だかんだで午前1時になってしまいました笑。
今では居間のカビはすっかり退治できたようですが、戦いはまだ終わっていません。シャワールームとトイレ周辺の配管近くにまだ大勢います。明日にでもやらねば…。しかも奥の方は手が届かなさそうなので、どうしようか思案中です。

こうしてカビ退治ができたとはいえ、カビが生える元凶の一つである湿気をどうにかしないと、また彼らは戻ってきてしまいます。困ったことにわが家には換気扇というものがなく、シャワーを浴びると湯気が抜けず、洗濯物は生乾き臭を放ちながら中々乾いてくれません。このためAmazon.frでデロンギ社製の除湿器を購入。昨日から稼働を始めましたが、数時間でタンクに面白いほど水が溜まります。湿気退治とこまめな掃除で、もう彼らに会わないことを願うばかりです。

今回は生活の困り事についてでした。次回は
今週末にリヨンの「光の祭典」を観に行くので、その模様をお伝えします。

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