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ヴェルサイユ宮殿観光の手引き・庭園編③

5 8月 2020

圧倒的な規模を誇るネプテューヌの泉水

今週は以前紹介したアンサンブル「サン=ジョルジュ・コンソート」のノルマンディー地方ツアーがあり、昨日と今日でリハーサルをしました。前回の演奏会プログラムを一部改変したものなので、再演の曲は確認程度でさくさくとリハーサルが進みました。明日と明後日が本番です。

さて、今回はついにヴェルサイユ宮殿庭園案内の最終回です。早速見ていきましょう!

19.「北の斜面の低いところへ出て、沼(の園)へ入り、そこをひとめぐりするように。」
この園は1778年にユベール・ロベールによる「アポロンの水浴の園」に完全に置き換えられ、ルイ14世が意図するものは今日では何も見つけることができません。「沼の園」は長方形の池の中心に一本の木を植え、周囲から木に向かって水をかけるように噴水が配置されていたようです。池の縁には草木が生い茂り、それが「沼」を演出していたのだと思われます。
しかし「アポロンの水浴」は完全にルイ14世時代と無関係なわけではありません。なぜならこの園の主題であるアポロンとその取り巻きたちの3グループの彫像は、1684年の北翼棟の建設工事でやむなく取り壊された見事な建築物「テティスの洞窟」に置かれていた彫像なのです。王国末期になって、100年前の建築物を彼らなりに復興したのでしょう。中央にはニンフたちの世話を受けるアポロン、両側は彼の馬たちと従者たちが配置され、洞窟自体はロマンティック様式で本当の洞窟のようです。近寄って彫像をよく観察したいところではありますが、手前の芝生は進入禁止になっていて遠くからしか眺めることができません。失われたテティスの洞窟にしばし思いを馳せましょう。

20.「三泉(の園)へ高い方から入り、下りて行って、3段になった泉を眺めたら、竜(の泉水)へと続く道に出るよう。」
1677年にル・ノートルによって造られた園ですが、1804年に完全に破壊されてしまいました。今日見られるのは2004年に復元されたものです。彫刻や噴水の形は違いますが、3つの泉水の間に水が流れ落ちる階段が設置された設計は当時のままです。
21.「竜(の泉水)の周りを巡り、ネプテューヌ(の泉水)の噴水と池を見るように。」
いよいよクライマックスです。圧倒的な規模を誇るネプテューヌの泉水と、竜の泉水から城館に近いピラミッドの泉水までが1つの群を形成しています。まずは竜の泉水。この竜はジュノンの命令でラトーヌを襲っていたピトンで、その子アポロンは間もなくピトンを退治して母の恨みを晴らしました。竜の周囲に配置された弓を持っている4人の子供はアポロンを表していて、竜はもがき苦しんで天に向かって水を高く吐き出しています。
続いてネプテューヌの泉水。縁に配置された小さな噴水を見ながら、土手を半周して中央へ行きましょう。手前に広大な池があって彫像は良く観察できないのですが、中央に三又の鉾を持ったネプテューヌ、周辺には海の怪物たちがいます。15分ごとに行われる噴水のショーは非常に見ごたえがあるので、休憩ついでに是非見てみて下さい。ちなみに池の背後には「王の名声」という彫像が配置されるようですが、修復中なのか現在は台座だけになっています。
22.「凱旋門(の園)の方へ行くよう。泉、噴水、水面と水槽の多様性、彫像、水の様々な効果に注目のこと。」
この園はル・ノートルによって1684年に完成しました。当時は上と下の二つの空間に分割されており、上には奥に凱旋門の泉水、左右に長方形を階段状に積み上げた泉水と4つのオベリスク、下には栄光、勝利、祝勝のフランスを表す3つの泉水があり、そのほとんどすべてが金鍍金仕上げという非常に豪華極まる園でしたが、残念ながら今日ではほとんどの構造物は失われ、残っているのは一番手前にある祝勝のフランスを表す泉水のみとなっており、上下の空間もつながってしまいました。わざわざ見るポイントが列挙されているので、ルイ14世自身もかなり気に入っていたのでしょう。興味がある方は是非、Bosquet de l’arc de Triompheで検索して当時の絵を見てみて下さい。あらゆる戦争で圧倒的な強さを誇った絶頂期のルイ14世と王国をよく物語っています。唯一現存する祝勝のフランスの泉水は武装した女性がフランスを表し、左右に敗者が座っています。
23.「竜(の泉水)の方に再び出て、園路(水の散策路)を通り、低いところの二つの泉水の間にある石の上に来た時、振り返ってネプテューヌ(の泉水)と竜(の泉水)を全て一瞥の下に見渡すよう。引き続きこの散策路を登って行くように。」
左右に様々な子供たちがデザインされた小さな泉水が置かれた園路を登って行きますが、「低いところの二つの泉水の間にある石」というのは今日では見つけることができません。車止めの木の杭が打ってある辺りでしょうか?ここからはネプテューヌの像は見えませんが、高く上がる水柱と手前の壺から湧き出る水柱、竜の泉水が1つの情景を成しています。園路の泉水の間には様々な形に剪定された小さな植木が並んでいます。
24.「下の泉水面のところで足を止め、浅浮彫とこの泉の他のところを見るよう。」
水浴びするニンフたちが描かれた中央の大きな浅浮彫の上から水が流れ落ちることによって、本当に水浴びしているかのような効果が得られています。中央の浅浮彫は金鍍金だったようですが、現在は鍍金はおろか地の鉛もくすんでしまっているのが残念。今後の修復に期待したいところです。
25.「それから、ピラミッド(の泉水)の方へ歩を進め、そこでしばらく足を止めて、さらに、研師像と恥じらいのヴェニュス像の間の大理石の階段を経て城館の方へ登ったら、階段の上で振り返り、北の花壇、彫刻、壷、冠(の泉水)、ピラミッド(の泉水)、それにネプテューヌ(の泉水)から(こちら側に)見えるものを観望し、そして、入ってきたのと同じ出入口を通って庭園を後にするように。」
海神トリトンたちとイルカによって支えられた5層のピラミッドの泉水は、構造は単純ですが水が流れ落ちるととても見ごたえがあります。階段の上から眺めると、幾何学模様に整備された左右の花壇とそれぞれ1つずつ配置された冠の泉水、生垣の中のニッチ(彫像を置くためのくぼみ)に配置された彫像、三角形に剪定された木々、今まで見てきたネプチューヌの泉水の水柱からピラミッドの泉水に至る一連の泉水群が一望できます。冠の泉水は2人ずつのトリトンと人魚が中央の冠を支えているデザインの泉水で、近くで観察したければ階段に至る前に2つあるうちのどちらかへ寄ってみるのも良いでしょう。
庭園を出るには少々遠いですが左手に城館を見ながら進み、左に曲がって南の花壇を右手に進み出場します。お疲れさまでした!

さてルイ14世の案内で庭園を巡ってきましたが、ルイ14世の意図としてはやはり水の効果が重要であることは明らかです。しかし現代の機械力をもってしても噴水の稼働にはかなり経費がかかるようで、噴水が稼働するのは夏期の休日、しかも全てが稼働するのは15時半から17時までの1時間半しかありません。私は少し庭園に詳しく体力がある方ですが、それでも全ての行程を回るのはかなり厳しいです。そこで、私なりにプランを考えてみました。現在の入り口から効率的に回れるよう、3のオランジュリーを上から見るところからスタートします。
・ルイ14世の栄光コース
3-1-2-4-5(オランジュリーは省略)-6-7-8-9-10-11(サテュルヌの泉水から進んで高い方から入り通り抜ける)-12-13-14-15-16-19-20-21-22-23-24-25-余力があればオランジュリーへ下りる
・かいつまんでじっくり見学コース
3-1-2-8-7-10-12-13-15-20-21-22-23-24-25
最後のネプテューヌの泉水からピラミッドの泉水に至るまでが非常に見ごたえがありますので、何とか時間内に最後までたどり着きたいところです。
また夏期の土曜日の夜は花火大会があり、花火開始前は20時ごろから噴水が稼働しますので、それに行くのも手でしょう。

以上、3回にわたって庭園の案内をお送りしました。皆様も是非、噴水の稼働する夏期の休日を狙ってヴェルサイユを訪れてみて下さいね。
次回は先週行ってきた南仏旅行の活動報告です。

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