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ヴェルサイユ宮殿観光の手引き⑤

6 6月 2019

歴代の王子・王女の誕生を見守った王妃の寝室

ついにヴェルサイユにも暑い日がやってきました。以前も書きましたが我が家は最上階なので熱気がこもりやすく、日中外出の際はブラインドを全部おろしますがそれでも帰宅する頃には熱くなっています…。日本に帰ったら窓に貼る遮熱フィルムを買おうと思います。
国王の24のヴィオロンの本番は来週にまだ1回残っていますが、今週は木曜演奏会に向けてアンドレ・カンプラのレクイエムに取り組んでいます。フランス・バロック屈指の名曲、私がこのジャンルにはまるきっかけになった曲の一つをヴェルサイユで、いつも通り情熱たっぷりのオリヴィエと素晴らしい研究センターの歌手、びっくりするくらい上手い少年少女歌手と一緒に上演できるとは嬉しい限りです。器楽も今回は初対面の人が多く、順調に知り合いを増やしているといったところですね。

さて今回は先日修復が終了し再公開されたヴェルサイユ宮殿の王妃のアパルトマンについてご紹介しましょう。
王妃のアパルトマンは鏡の回廊を挟んで戦争の間と対になっている平和の間から見学を始めます。平和の間は王妃のアパルトマンではありませんが、ルイ14世の治世終了後は鏡の回廊と平和の間の間に仕切りが設けられ、実質上の王妃のアパルトマン奥の間になっていました。ルイ15世の王妃マリー・レクザンスカはこの部屋で毎週日曜日に音楽会を開催しており、楽器の演奏に長けた王女アデライードやヴィクトワールたちを育みました。
なお王妃のアパルトマンの修復は終わりましたが、平和の間は現在も修復中で壁は覆われ、通路が設けられているだけになっています。公開されたらまた追記することとします。次は寝室から順に、公的空間へ向けて順路を進んでいきます。
・寝室
国王のアパルトマンはルイ14世時代から既に儀礼のためだけの空間で居住するためのものではなく、その後の国王も特に内装に手を加えなかったのに対し、王妃のアパルトマンは実用する居住空間であったためマリー・レクザンスカとマリー・アントワネットによって内装は変更されています。この寝室は天井の枠組みこそマリー・テレーズ(ルイ14世の王妃)時代のものが残るものの、他は全てマリー・レクザンスカの内装です。暖炉と鏡付近はバロック様式よりも優雅で繊細なロココ様式の木彫で装飾されており、寝台側の壁面はユリの花束とクジャクの羽がデザインされたマリー・アントワネット時代の壁布が復元されて寝台とも調和しています。扉の上にはマリー・レクザンスカの子女のうち5人が描かれ、多くの子を持つ母として生きた彼女の一面を垣間見ることができます。天井のグリザイユ画法(モノクローム画法)で描かれたフランソワ・ブーシェによる4つの絵はそれぞれ王妃が持つべき4つの美徳である豊穣、忠実、慈悲、慎重の寓意です。また4隅にある木彫を除いて他の天井部分は壁面の木彫に対応する騙し絵になっています。
この部屋では国王と同じく儀礼に従った謁見が行われたほか、王位継承権を持つ嫡子の正当性を主張するため出産はこの部屋で公開のもと行わなければなりませんでした。1789年10月6日、暴徒がヴェルサイユ宮殿に押し寄せた際には寝台の左右にある小さな隠し扉を通って、マリー・アントワネットは奥の間へと逃げ込みました。

・貴族の間
アパルトマンの機能上は控えの間にあたりますが、マリー・レクザンスカはこの部屋を大広間として整備し、設置した天蓋に座って謁見を行っていました。
部屋の主題は対になる国王のアパルトマンに対応させるため芸術と科学の守護神で天上からの使者であるメルクリウスとなっていて、中央にはメルクリウス、四方には絵画、哲学、織物、音楽に長けた女性たちの逸話が描かれています。寝室の装飾には手を加えなかったマリー・アントワネットはこの部屋には大きく手を入れ、壁面にはそれまでの木彫をやめてヤシの木の模様が入った緑のダマスク織の壁布をかけるという、当時流行の英国風を取り入れました。マリー・アントワネットお気に入りの家具職人リーズネルがこの部屋に収められたはずの洗練された家具は革命の際に散逸しましたが、一部は買い戻されて展示されています。

・大膳式の間
この部屋は第一控えの間であると同時に、国王と王妃の公式晩餐会である大膳式が行われる部屋でもありました。暖炉を背に国王夫妻は豪華な椅子に座り、その周りに座ることができるのは王族と侯爵夫人のみでした。食事においてもルイ14世はこれを儀式化し、権力誇示の場としました。王妃の死後1690年からルイ14世はこの大膳式を自分のアパルトマンの第一控えの間で行うようになりますが、ルイ15世の治世になるとこの儀式は再びこの部屋で行われるようになりました。マリー・アントワネットは食欲旺盛なルイ16世と対照的に、手袋を外さずあまり食事に手を付けなかったそうです。
この部屋の装飾は貴族の間と打って変わって赤い壁布となっており、天上には国王の大アパルトマンのマルスの間でも見ることのできたル・ブランの「アレクサンドロス大王にひれ伏すダレイオスの家族」を中心に、周りには戦場に赴く古代の勇猛な女性たちの場面が淡彩画で描かれています。戦争の神マルスは描かれてはいませんが、明らかにこの部屋の主題は戦争であり、マルスの間と対応しているのが分かります。暖炉の反対側には3人の子供と共に描かれたマリー・アントワネットの肖像画が掛けられています。

・衛兵の間
衛兵の間は通常あまり装飾がなく見どころが少ないものですが、この王妃のアパルトマンの衛兵の間は見どころがたくさんあります。今までの部屋は歴代の主人によって内装が大きく改造されましたが、この衛兵の間には王妃が来ることはないため改装は行われず、17世紀の内装が現在も残っています。壁面には多色の大理石が幾何学模様に実に美しくはめ込まれ、扉上部や鏡周辺にはバロック様式の木彫が見られます。天井の中心には最高神ジュピテルが神々しく描かれており、四隅に描かれた欄干から身を乗り出している宮廷人たちの称賛を受けています。この部屋の主題はジュピテルと共に正義であり、円天井は古代の偉大な王や哲学者を描いています。
衛兵の間を抜けると、かつては衛兵の控えの間であったルイ=フィリップ王の「戴冠の間」へ順路が続きます。

今回は王妃のアパルトマンについてお伝えしました。次回は現在開催されているマリー・レクザスカ展とマントノン夫人展についてお伝えします。

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