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ヴェルサイユ宮殿観光の手引き④

3 4月 2019

ヴィクトワール王女の大広間

新元号「令和」が発表されましたね。遠く離れたフランスでも4月1日は日本人同士でこの話をしていました。平成生まれの私としては改元は始めてなので何だか感慨深いです。
先週は語学学校で毎月末に行われている校外学習でパリ高等裁判所を見学してきました。日本でも見たことのない実際の裁判の様子に加え、裁判官、弁護士共に黒い法服を着ていたのが印象的でした。建物はパリ郊外にあり、近代的な建物で法廷も会議室のような感じでした。
先週末には師匠パトリックのリサイタルが小さな教会で行われました。テレマン、ビーバーとJ.S.バッハのパルティータ2番という完全無伴奏リサイタル。9月から師弟関係を開始しましたが初めて「本気」の演奏を聴くことができました。学ぶべきことはまだまだありそうです。
今週は木曜演奏会に向けてヴェルサイユバロック音楽研究センターの学生と少年合唱団と共にリュリの名曲《ミゼレーレ》に取り組んでいます。指揮はあの有名なオリヴィエ・シュネーベリ、今まで演奏会で何度か見かけましたが共演するのは初めてです。彼の熱血指導、特に歌詞の朗誦法に関してはとても素晴らしくて、歌手たちは皆若いにも関わらず今まで経験したことのないような彫りの深い表現を伴った歌唱を披露してくれます。やはりここに来てよかった!と思うと同時に、改めて格の違いを思い知らされたという感じですね。

さて、今回のヴェルサイユ宮殿観光ツアーは地上階の王女たちのアパルトマンです。
「王妃の階段」を下りて一度栄光の中庭に出て、宮殿正面に向かって進みます。白と黒の大理石が敷かれた部分は特に「大理石の中庭」と呼ばれ区別されており、ルイ14世の時代からここで野外オペラ上演などが行われています。ヴェルサイユ宮殿の核であるルイ13世の小城館に三方を囲まれ音響もそれなりにあるようですよ。機会があったら観劇してみたい!ここで記念撮影されている方も多くいて写り込むのは申し訳ない気にもなりますが、順路なので中庭を進み正面中央の扉から中へ入りましょう。
巨大な大理石の円柱の間を抜けると、いくつかの彫像が置かれているだけの割とそっけない回廊があります。鏡の回廊の下の部分にあたるこの「下の回廊」はルイ・ル・ヴォーによって建築され、現存しない国王の浴室へと続いていました。普通なら何も見ず素通りしてしまうかもしれませんが、是非彫像を見てください。春夏秋冬、四代元素(水、土、火、空気)が擬人化されています。これらの題材は庭園を見る際にも重要になりますので頭の隅に留めておきましょう。
右手にある通路を進むと王女たちのアパルトマンに入ります。ヴェルサイユの儀礼では、王家の子供たちは召使い付きのアパルトマンを与えられましたが、今日ここにあるのは革命による王家の終焉により最後の持ち主となったヴィクトワール王女とアデライード王女のものです。革命の際に調度品が散逸したのに加えて、ルイ=フィリップ王がここにも展示室を作ったため今日見られる姿は復元されたものですが、2人の王女の生活の様子を思い浮かべることができます。
まずはヴィクトワール王女のアパルトマンから。最初の部屋は第一控えの間で、装飾はほとんどなく簡素なものです。壁には女性の肖像画としてはとても大きいサイズである3枚が掛かっており、右から順にヴィクトワール王女、姉妹の中で唯一結婚しスペインへ嫁いだエリザベート王女、アデライード王女です。このアデライードの肖像画は過去に私がライナーノーツの制作に協力したCDのジャケットになっていて、最初に訪れた時すぐにそれと分かりました。
次は第二控えの間。第一控えの間より装飾は格段に多くなりますが、国王の大アパルトマンで見られたようなバロック装飾とは異なり繊細なロココ様式の木彫です。なおこの王女たちのアパルトマンについては多くの装飾が失われており復元されたものもあるようですが、どれがオリジナルでどれが復元されたものなのか見ただけではわかりません…。本文では今日の状態をお伝えします。
大広間に入ると、並べて置かれた2台のチェンバロが存在感を放っています。残念ながら王家の楽器ではありませんが、18世紀のオリジナル楽器とのこと。詳しく見たいところですがロープが張られ近くで見られないだけでなく、ふたが閉められカバーが掛かっています…。この王広間で2人の王女はしばしば演奏会を開き、自分の楽器演奏の技量を披露しました。ヴィクトワール王女はチェンバロとハープ、アデライード王女はヴァイオリンを弾きました。彼女たちはどの肖像画を見ても特徴は明らかで、ヴィクトワールはふくよかで温厚、アデライードは細身で生き生きとした感じですが、これは彼女たちの楽器にとても良く合っていたことでしょう。ちなみにこの部屋には一部にバロック様式の装飾を見ることができますが、これはかつてこの場所にあったルイ14世の浴室の一角である八角形の部屋の名残です。壁には肖像画が多くかかっていますが、その中には幼少期より修道院へ送られ母親である王妃が長らく会うことができなかった、ヴィクトワールを含む4人の末の王女たちを見ることができます。
寝室は緑色を基調とする夏用の布で装飾されていますが、これは当時の製作技法により復元されたものです。他のアパルトマン同様、冬はビロードの布に取り替えられますが、今日の宮殿の調度が夏用になっているのは革命で王族が去ったのが夏であったからです。壁の装飾は壁布が大半を占めるためあまり多く見ることはできませんが、天井と壁の間には子供(天使?)や女性をモチーフにした優美な装飾を見ることができます。この部屋にも大きな肖像画が掛かっていますが、赤いドレスを着てヴィオールを弾いている女性は24歳で亡くなったアンリエット王女です。彼女もまた音楽を愛好し楽器演奏に長けていました。その他特徴のある家具は向かって右の暖炉の上に置かれた緑の陶磁器の壺でしょうか。これらは革命の際に売られて散逸しましたが、近年宮殿が買い戻したヴィクトワールの所有品の一つです。
次は奥の間です。寝室が公的空間であるのに対して、奥の間は真にプライベートな間であり、家主に特別に招かれた時のみ入ることができました。部屋の装飾は優美な木彫が多く使われていますが、天井と壁の間の装飾は楽器をモチーフとしたものです。窓際には妹ヴィクトワールの肖像の横で机に向かうアデライードの肖像画を見ることができます。生涯未婚で子供もいなかった2人の王女たちにとって姉妹の絆は大事なものであったのでしょう。
次の部屋は同じく私的な空間である図書室です。現存するのはヴィクトワールの図書室のみであり、その上にあったアデライードの図書室は失われてしまいました。2人はとても読書好きで蔵書が大量にあり、科学の本なども読んでいたそうです。ヴィクトワールの蔵書は緑色、アデライードの蔵書は赤色の製本で整理されていました。
ここから先はアデライードのアパルトマンになりますが、図書室を軸に今度は私的空間から公的空間へ出ていくことになります。まず最初は奥の間ですが、おそらく大部分の装飾は失われたのでしょう、奥の間にしては装飾が少ない印象です。このアパルトマンはかつてルイ15世の公妾であったポンパドゥール侯爵夫人が所有していたものであり、この奥の間は「赤い漆の間」と呼ばれていました。
次は寝室。ヴィクトワールの寝室とほぼ同様で、ここにもアデライードとヴィクトワールの肖像画が対になって掛けられています。一連のアパルトマンには一体何枚彼女たちの肖像画があるのでしょうか。天井の端には子供(天使?)をモチーフにした装飾があります。彼女たちのアパルトマンでたびたび見られるこの題材は、もしかすると子供のいなかった2人の母性をくすぐるものだったのかもしれないなと思いました(違うかもしれません)。部屋の右には高級家具職人ジャン・アンリ・リーズナー製作の精巧な箪笥、その上に金箔ブロンズの燭台があります。
アデライードの大広間には室内用のオルガンと傍らにハープが置かれているのが目につきます。室内用と言ってもいわゆるポジティフオルガンではなく、教会などにある大オルガンをそのままスケールダウンした感じの豪華なもので、装飾も凝っています。中央の二匹の犬(グレイハウンドという犬らしい)は女性を表す婉曲表現で、この所有者が王女であったことを示しています。壁にはまたしても2人の王女の肖像画がありますが、右にあるアデライードの肖像画はよく見ると足元にいる犬が楽譜を踏んでいます…何かの表現なのでしょうか。
あとは簡素な第二控えの間と第一控えの間を見て終了…と思いきや、いきなり大きな部屋に出ます。弓兵の上着の名に由来する「オクトンの間」と呼ばれるこの場所には元々衛兵の間があり、その後ポンパドゥール夫人がアパルトマンの第一、第二控えの間に改装して以来アデライードのアパルトマンの一部として革命を迎えますが、その後かつての衛兵の間を復元したようです。大広間側には金色の鉄柵があり、かつてはルイ14世の浴室へと続いていました。
最後に「大使の階段」の入り口ホール跡を通りますが、ここに大使の階段の模型があります。近くに行って見たいのですがロープが張られていて遠くからしか見ることができません。見せてくれればいいのにー。
こうして再び栄光の中庭へ出て、王女たちのアパルトマンの見学は終了です。宮殿の見学を終了する際は反対側、最初に中庭に出たところから「Sortie(出口)」の案内に従って階段を下っていくとオーディオガイドの返却所があります。持ったまま出ようとすると警報が鳴るので必ず返しましょう。

今回は王女たちのアパルトマンについてお伝えしました。正殿とそれに続く棟で公開されている場所は他にルイ=フィリップ王の整備した戦争の回廊やフランス史博物館などがありますが、いずれも旧体制時代のものではないため割愛したいと思います(気が向いたらやるかも)。庭園やトリアノンは、もう少し暖かくなってからのお楽しみということで。
来週はところ変わって「ヴァンセンヌ城」をお伝えしたいと思います。


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